映画レビュー

成功と反比例して深まる孤独『ロケットマン』で人間の幸せは何かを考える

© 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

『ボヘミアン・ラプソディ』の成功で製作者たちが次に目を向けたのは、エルトン・ジョンだった。なるほどなと思った。英国を代表する歌手で世界的知名度も高く、名曲揃いで、LGBTとフレディ・マーキュリーと共通項も多い。
故ダイアナ元皇太子妃に捧げる「Candle in the Wind」(1997年)は世界で最も売れたCDシングルとして記録され、日本のオリコン・チャートでも洋楽としては異例の2週に渡って首位を飾った。05年には事実上の同性との婚約を発表するも、合法的には認められていなかったため、パートナーシップを結ぶだけに留まった。それを松本人志が日経エンタテインメントの連載で「あんだけ地位も名誉もお金もある人が、たった紙切れに固執する理由が分からない」と述べたことがあった。正しく自分も同意見だった。

しかし、その理由こそ、この『ロケットマン』であった。
エルトンの曲は実に内省的な曲が多く、だからこそ物語構築が可能になる。そして、世界的有名な楽曲群は実に切ないものが多い。それは、彼が親から全く関心を持たれなかったトラウマや、そして、自分を金の成る木としか見てない上っ面の恋人など、他人から愛される経験をしてこなかったことに由来していよう。

[PR]


成功すればするほど反比例して孤独になっていき、満たされない泥沼な人生。
本作『ロケットマン』は、『ボヘミアン・ラプソディ』同様に音楽家の成功物語だけでなく、苦悩やトラウマなどのエルトンの人間性の闇まで切り込んだ濃厚なドラマに仕上がっていた。ただ、QUEENと違ってバンドではない。その分、尚もパーソナルで、がゆえにセンシティブだった。

最近は『キングスマン』で主人公そっちのけで大暴れしてたけど(笑)


それを見事に表現したタロン・エガートンは流石だった。『キングスマン』ですっかりアクション俳優の印象が強いが、タロンの繊細な演技なしでは、ここまでエルトンの人生は再現できなかっただろう。複雑な人生を送ってきたがゆえの、言葉では言い表せない行き場のない感情も、見事に表現していた。『ボヘミアン~』は口パクだったが、今回の『ロケットマン』は生歌に拘ったという、それだけ楽曲が活き活きしていたように思える。

エルトン史上最高傑作と評したい「Your song」の誕生は決してドラマティックではなかったが涙腺が緩んだ。エルトンの才能が開花したシーンの象徴として描いたことは吉と出ていたように思えるし、何でも無いシーンなのに何故か美しかった。この楽曲の持つパワーは凄いなと再確認した。

あ、あとどうしても触れときたいのは、決して自己主張し過ぎない『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベルの相棒ぶりも良かった。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

[PR]




[PR]

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 安室奈美恵の引退ツアーを観る!世界中の賛美を彼女に贈りたい!
  2. 実写化史上最も成功していると言って過言でない『美女と野獣』に感動する
  3. 第10回 独断で選ぶ素晴らしい邦楽たちTOP10 2018
  4. 【ライヴレポ】ワンオク初の東京ドーム公演で見た“世界基準のバンドの風格”に圧倒さ…
  5. 【追悼】アメコミ界の巨匠スタン・リー逝去~映画カメオ出演を振り返る~

関連記事

  1. 映画レビュー

    何故か『ヴェノム』が可愛く見える不可思議?最恐で最高のダーク・ヒーロー誕生!

    ヴェノムは既に2007年の『スパイダーマン3』に登場済みヴェノ…

  2. 映画レビュー

    二兎追う者は一兎も得ず?『女王陛下のお気に入り』は権力に奢れる人間の愚かさを描いた愛憎劇

    アカデミー賞はこの映画の何が好きだったの?英国王室・衣装メイク…

  3. 映画レビュー

    『ミスター・ガラス』シャマラン監督流のこじんまりしたアクションが愛おしい

    全身の骨がガラスのように脆いサミュエル・L・ジャクソン、24人…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. ハリウッド

    2018年も大活躍間違いなし“次世代イケメン俳優”を青田刈り!
  2. 映画レビュー

    『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の功績は神話をオリジナリティをもって進展させ…
  3. ハリウッド

    【報酬額予想】相当稼いだだろう新スパイダーマンのトム・ホランドが確定申告で困って…
  4. ハリウッド

    【ジャスティス・リーグ公開記念】いま最もホットなハリウッド俳優“エズラ・ミラー”…
  5. 邦楽

    RADWIMPS「HINOMARU」が物議!ポップ・ソングの右傾化に不自然さを感…
PAGE TOP