映画レビュー

『ブラック・パンサー』を観た!社会風刺と娯楽性が融合したマーベルの新傑作が誕生したようだ!




(C) Marvel Studios 2018


風刺性と娯楽性を兼ね揃えたヒーロー映画の傑作など、なかなか見当たらないものだ。それこそ世界的現象化している由縁であり、作品が持つ底力をまじまじと見せつけられた圧巻の映画だった。

黒人俳優が中心の作品など、これまでは人種差別を取り扱った社会派ドラマやコメディしか無かった。そのことでも注目を集め、「黒人俳優だけでも、こんなにcoolな超大作がある」という、人種間の垣根を超えた意識を潜在的に印象付けるのに格好の映画であり、それこそ革新的と思っていたが、それは表面上でしかなかった。この映画はもっと根深く“今の”アメリカをエグる。

主人公こそ自国優先でトランプ的保守米国の象徴であった

アフリカに存在する架空都市ワカンダ。表向きは農業中心の途上国だが、実は物凄いテクノロジーを擁する未来都市である。その技術力を駆使すれば、世界のどの国も敵わないレベル。しかし、前国王や主人公ティ・チャラの方針は、自ら他国に関与しないものだった。それで平穏が保たれているとされてきた。しかし、これは同時に難民の受け入れも拒否する保守的な思考でもある。まさに、自国の利益優先のトランプ大統領掲げる「We Will Make America Great Again」だ。


差別を受ける弱者に力を与えるヴィランの理屈は完全悪と言えるか?


見所は、その概念に反発する、いわゆる主人公の従弟にあたる、本作に於ける敵役キルモンガーが現れること。彼は、ティ・チャラから王座を奪い国王となる(この血縁関係の権力争いは、戦国マニアにはたまらない設定で、この映画をより面白くしている)。彼は、ワカンダの技術と力の源である資源「ヴィブラニウム」で武器を作り、それを世界中の弱者に渡し、彼らを支配している連中にギャフンと言わせようじゃないかと主張する。差別され虐げられてきた彼が、立場逆転を狙うというわけだ。



これって、60年代にオークランドで結成され、武力で人種問題に刃向った黒人政治組織「ブラックパンサー党」まさしくそのもの。映画名と政党名が同一であるが直接的な関係はないとされているが、通じるものはある。武力の肯定云々はさて置き、独裁的とは言えキルモンガーの主張も一理ある。虐げられてきたものが非暴力で抗議してきても、歴史は何も変わっていないからだ。ヴィランでありながら、その信念は悪とは言い切れない。これは『キングスマン』でも同じことを感じた。100%の勧善懲悪ではないところが作品に深みを出している。

MCUの主人公に見る非完全性こそ人間的魅力

『ホームカミング』で主人公のピーターが、大人に認めて貰えないことに悩み、英雄になれないジレンマと葛藤したように、マーベル作品では主人公が単純なヒロイズムの中で生きていないからこそ、人間味が出て、ヒーロー映画を人間ドラマとして掘り下げることに成功してきた。今回も然り。ティ・チャラは、国王としての資質やワカンダの歴史に悩む。そこに、2010年代後半にアメリカが抱える社会的テーマを織り込むことで、多くの勝算を得ることが出来たのだ!

アクションは既視感ありあり

今までMCU作品は派手さで視覚的に圧倒してきた。その作品群の中で言えば、本作のアクションが抜きん出ているとは言えない。ま~既視感はある。反逆勢力との大勢の戦いは「指輪物語」で散々観て来たし、戦闘機でビーム撃つとか実にSWっぽいし。
けど、最先端の技術力を誇ると言われているワカンダの武器や、女性戦士の太刀にはMCU好きなら、ワクワク感が止まらないだろう。やはり、かっこいい。何を見せるべきか、マーベルはわきまえてるからこそ、どの作品も最高なのだ。

© Marvel Studios 2018


特に、釜山のカーチェイス・シーンはめっちゃ格好良かった。これは、映像的な技術もあろうけど、ケンドリック・ラマーが全面プロデュースしたBGMの先進的なサウンド面の影響も大きいだろう。
個人的には、韓国に向かう際に使用されたケンドリックの「Pray For Me」のラグジュアリアスなサウンドは今年のベスト・ソングに入れたいほど感銘を受けた。

ケンドリックとブラックパンサーの共通項

出典:kendricklamar.com


著名な音楽人にテーマ曲を書かせるのはMCU初の試みでもあるが、ケンドリックの音楽的ポリシーと本作のテーマが似通っていることも偶然とは言えない。
ケンドリックは2012年『good kid, m.A.A.d city』時点では、抗争、ドラッグ、酒、仲間、裏切り、失意など、とことん辛気臭い楽曲の果てに“自分への愛”を歌う。(ナルシズムや利己的な偏愛でなく、自尊心のニュアンス)。自己愛、自尊心というのはケンドリックを語る上で最も重要なキーワードだ。
続く、2014年『To Pimp A Butterfly』では外への攻撃を感じさせる楽曲が多い。この作品のリリース時期が白人警官の非武装黒人への暴力が取り沙汰された時期なことも相まってか、黒人の人権を主張する気風のアンセムとなった「Alright」が象徴的だ。ただ、この作品でも行き着く先は“自己愛”である。
2018年のグラミー賞で主要部門は獲れなかったものの、RAP部門を制覇した傑作『DAMN.』でも、傲慢さと謙虚さの二面性を示し、愛を歌う。
反トランプの象徴とされながらも、政治的なスタンスは表明せず、内省的な弱みを露呈(俺は聖人君子ではない的な発言)しながらも、時流と闘うラッパー、ケンドリックも、国を守るために戦うことを選んだブラック・パンサーと同じ。

作品には力がある。
最終的に、ティ・チャラは国連で「ワカンダが他国に貿易などの友好的な積極的関与をする」ことを表明する。その中で、「賢者は橋を架け、愚者は壁を造る」と口にする。メキシコとの国境に壁を作ると公約に掲げたトランプ政権への、モロな反論だろうか。閉鎖的な空気感の中で、今一度、ケンドリックが説く愛に通じる多様性を説いて、本作は幕を閉じる。

© Marvel


さて、いよいよ『アベンジャーズ/インフィニティ―・ウォー』である。ブラック・パンサーの活躍にも期待がかかるが、MCUの行く末がどうなるのか?待ち遠しくて仕方ない。

(文・ROCKinNET.com編集部)
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