アカデミー賞

『シェイプ・オブ・ウォーター』の成功の理由は異質との性描写で逃げなかったことにある!

(C) 2017 Twentieth Century Fox

異物との性描写を逃げないからこそ究極の愛が描けた

甘美で倒錯的な独自のデルトロ監督ワールドのひとつの到達点と言えるだろう。「クセが凄いんじゃ~」な同監督作なので、見る人を選ぶのは言うまでもなく、本作でもデルトロ節健在!
純粋なboy meets girlで終わらない。主人公の口が利けない女性は毎日朝起きて入浴して、マスターベーションするのが日課だったりと性描写に遠慮が無い。寓話にしてはドギツイと思われるだろうが、これこそ彼の作品の味。一筋縄ではいかない。半漁人版の『美女と野獣』かと思ったが、綺麗事が一切なかった。どうも、本国版では、半漁人と主人公女性のSEXシーンがあったらしいが日本公開版はカットされていたらしい。どんなにグロイ、プレーだったのか見たかった。愛とは、結局は、そういうことなんだから。スピルバーグ作品なんかは、いつもSEXで逃げるからこそ、大衆娯楽として成立してきたが、個人的には「そんな、馬鹿な」と思えるものの、異質との性交というのは、突き詰めるところの究極の愛なんだなと思う。だからこそ、この作品ではカットすべきではない。




多様性を描くことで反トランプの姿勢は崩さない

口が利けないという障害を持った主人公、同居人のゲイの老人、黒人の同僚など、マイノリティを描いているように、多様性の受容をテーマにすることが、もはや、反トランプ政権の表明と、今の映画人の制作意欲が高揚する象徴的テーマであることを改めて感じさせる作品でもあった。これって、あと三年後(トランプ大統領の再選は流石にないと思っているが)に客観的に見れば、時代の流行と片付けることが出来るのだろうか。

脚本的には『スリー・ビルボード』の方が格上か?

口が利けないがゆえに孤独を感じる女性が、会話を要しないで成り立つコミュニケーションの出来る対象として、半漁人に惹かれるも、それだけで惹かれ何もかも投げ捨てて、彼に夢中~❤って、ホストにハマるような、だいぶ痛い女性だなと感じたが(半漁人なので貢ぐとしても卵で済むからいいだろうが)。その対比として、口も不自由なく効ける周囲の男性たちが、しっかりしたコミュニケーションが取れていないことが何とも皮肉である。何を以て「普通」と言えるのか。暴力的で利己主義な白人男性たちと、純粋無垢な半漁人を見比べると、これもまた監督の強烈な皮肉を感じる。
舞台設定は、冷戦下のアメリカである。しかし、現代も同様に不寛容な時代であり、同じようなギスギスした空気感の中で、これだけ純真な恋愛を描き切ったデルトロ監督の語り口に唸るも、脚本としては言うほど物珍しいストーリーでもない。普遍的な、どこにでもありそうな恋愛物語だ。そういう点においては、話の展開が先読みできない『スリー・ビルボード』の方が、一歩上手だったように思えるが、果たしてオスカーは、どういう結論を下すか?

アカデミー賞獲るに相応しいか否か?(獲るだろうけど)

この映画の優れている点は、明確に言えば、作り手の丁寧な仕事っぷりだろう。セットから、音楽から、半漁人のメイクから、細部まで拘った職人技が光る、技術職人の映画だと思う。だから、技術スタッフのオスカー受賞は多いだろう。しかし、いくら多様性を描こうとも、この映画が「時代を象徴し代表させるような作品か?」と言われれば、些か疑問が残る部分ではある。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。


 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 何故「バルス現象」は起きるのか?その理由は日本特有の国民性と風土にあった!
  2. またもコンサート会場が狙われる「米国史上最悪の銃乱射事件」から音楽ライヴ運営の将…
  3. 【全曲レビュー】桑田佳祐の最新作『がらくた』が凄過ぎた!大衆音楽ここに極まり!
  4. エルレ細美が「待った!」転売野放し・・・チケットだけじゃないライヴ物販問題を考え…
  5. 【ヒットの勝算はネット戦略にあり?】恐怖のピエロ映画『IT』が公開第三週で興収首…

関連記事

  1. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス

    冒頭から巨大な海洋的な異性物が落下してきて、お馴染みの駄目駄目…

  2. 映画レビュー

    【報道とは何か?】映画という名のワイドショーだった『フロントマン』

    アメリカの大統領選は完全にエンターテイメントなんだなと思っている。…

  3. アカデミー賞

    第91回アカデミー賞ノミネート発表!今年の賞レースを席巻している『ROMA/ローマ』優勢か?

    『ブラック・パンサー』ヒーロー映画として初の快挙!いよいよ本格…

  4. 映画レビュー

    愛され系映画キャラの理想形『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』

    今回はシリーズ中でも最も笑えると思うくらい、下ネタ、社会風刺、毒舌…

  5. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】デッドプール

    (C) 2016 Twentieth Century Fox Film…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. 邦楽

    【全曲レビュー】桑田佳祐の最新作『がらくた』が凄過ぎた!大衆音楽ここに極まり!
  2. ハリウッド

    【ヒットの勝算はネット戦略にあり?】恐怖のピエロ映画『IT』が公開第三週で興収首…
  3. ハリウッド

    世界各国で記録的ヒットの『ブラック・パンサー』は何故ここまでの現象になったかを勝…
  4. ニュース

    【徹底考察】『カメラを止めるな!』は何故ここまでヒットしたのか?を真剣に妄想する…
  5. 日記

    アナタが行くヤツ、それ本当にフェス?フジロックが世界の最重要フェス3位に選出!
PAGE TOP