映画レビュー

【映画レビュー】BLの枠に留まらない究極の恋愛映画『窮鼠はチーズの夢を見る』



(C) 水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

LGBTの歴史的転換でもある映画

とんねるずの保毛尾田保毛男に異議を唱えれば「テレビをつまらなくしている」と批判の声が起こるし、「LGBTは生産性がない」と罵る国会議員もいる……まだ日本ではLGBT差別は色濃く残っているとは思うけど、遂にジャニーズタレントが、このジャンルに出演したと言うことで、これはね、もう、かなりの革命だと思う。LGBTの歴史的転換期とも言えるかも知れない。

性差別意識の変革を感じさせた異例のヒット!

原作はBL漫画ということで普通ならサブカルとか世間の端に追いやられるようなジャンルにも関わらず、関ジャニが出ていることも影響してるんだろうけど、これだけの大規模な館数で公開されることは現代的だなと感じるし、異例のヒットを飛ばしていることも凄い時代になったなと。
例えば、浜崎あゆみが売れる前に出演して当時巷で話題になった1995年のゲイ映画『渚のシンドバッド』とか、男子同士がキスするだけで衝撃だったことを考えれば、大倉と成田の体当たりの絡みのシーンなんか見てると、25年での表現の発展と、それを寛容する世の中の性差別意識の変化というものに驚きを隠せない。

単なるBLにあらず!行定勲監督が描く究極の恋愛映画!

とにかく、こんなに繊細な日本映画を見たのは久々だと思うくらいに完成度の高い心情映画だった。行定勲監督の人の感情をリアルに肌感で伝える、巧みな演出に鳥肌が立ちっぱなしだった。



最近の日本映画はコント化してるなと思う節があって、ト書きまで喋るような、説明台詞が多いなと思ったりもしてるんだけど。この映画は語らずして、感情を表現してて、流石は、数々の恋愛や人間の感情を描いてきた行定監督だなと脱帽してしまう。視線や表情で全てを観客に汲み取らせる凄み。直接的な台詞なくして情緒を表現するというのは、才能としか言いようが無い。

あとは、物の使い方も秀逸だったと思う。
例えば、成田凌が憧れの大倉忠義の寝間着やパンツを着すことで距離感を表現したり、大倉が大学時代に成田にあげたというジッポだけで、長年の恋心を表したり。
同級生の元カノ(ゲスの極みのドラムの娘ですよね?)と成田による、気の強い女とゲイのガチコン対決のシーンで、そこに大倉を呼び出しすなんて、K-1並みの緊張感で……ゲイに勝ち目ないだろと思わせといて、大倉が席に着いたと同時に、元カノではなく、成田と同じ銘柄のビールを頼むとかね。そこで大倉がどれだけ成田に近しいのかを表現してるわけで、巧いな~と。でも、結局は、差別的な女性の前で「お前を選ぶわけにはいかないよ」なんて言われて、ゲイの成田にしたら究極の屈辱を味わうわけで、見てて苦しかったな~。


大倉忠義はゲイになったわけではない?

でも、本作はLGBT映画とかBL映画じゃ無いなと思う。それは行定監督も言っていたことではあるんだけど、性的マイノリティの話では決してない。ゲイの目覚めみたいな勘違いをする人も多いかも知れないけど、大倉は目覚めてないんだよね。あれだけヤリチンで流され侍な彼が、男を受け入れた時から、成田以外の男を試そうとしてないのと、あとは、ゲイバーで居心地悪くて涙するとか。背徳感を抱えながらも、男に目覚めてない。ただ、純粋に成田を愛してると。いわゆる、パンセクシャルってことなのかなと。究極の恋愛じゃないかな~と。原作はBLの域から出てないのかも知れない。普通の男女の恋愛を描くのと差が無いようなところで留まっているだけかも知れないけど、実写版は、もっと二人の心情や関係性に特化した、切ないラブストーリーに昇華することに成功していると思わずにいられない。

本気で人を愛するってこういうことなんだと。
「完璧な容姿で自分を大事にしてくれる人に惹かれる、そういうことじゃない」という成田の台詞が全てを表している。理屈じゃない。欲情でもない。その人じゃ無いと成り立たない感情。胸が苦しい・・・・・・


大倉忠義×成田凌、二人の繊細な演技に脱帽!

スマホを落とした時の大根ぶりが信じられないくらいに、成田凌の演技が素晴らしくて、もう彼が異性愛者だとは信じたくないくらいで。あとは、大倉忠義も素晴らしかった。彼じゃないと、この役、務まらなかったんじゃないかな。『怒り』で綾野剛と妻夫木聡が、凄いゲイカップルを演じたのも記憶に新しいけど、成田と大倉は、それ以上で、おそらく日本映画で彼ら以上に、LGBTの心情を演じた役者は今のところいないと思うし、それを演出した監督に拍手!

(文・ROCKinNET.com編集部)
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