映画レビュー

【映画レビュー】常人には達することができない究極のSFアクション映画『TENET』



(C) 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

常人には達することの出来ない究極のアイディア!

世界中に存在する全ての賞賛の言葉をノーランに捧げたい気分である。
スパイ映画に時間の概念を付け加えた常人には達することの出来ない究極のアイディアは、我々を未知の世界に誘うに十分過ぎるほどの迫力を持っていた。この映画が凄いのは、時間の逆行を物理的な「現実」すなはち、SF消化で誤魔化さなかったことにある。全て科学的に理屈が通りながら物語を組み立てたのだから、流石としか言いようが無い。


この映画で描かれる時間軸の基本的な考えを抑える!

時間は過去から未来にしか存在し得ないと私なんかは思っていた。これを「不可逆性」と言うらしい。友人と揉めて失礼な言葉を吐いたり、二日酔いになったり、後悔先に立たずなのは、時間が不可逆だからだ。

しかし、時間が可逆になってこそ【TENET】は成立する。例えば、親子がキャッチボールしている映像を見る。父が息子にボールを投げ、空中に曲線を描きながら、息子が父の投げたボールをキャッチする。このボールの出着軌道線を、カメラを再生と巻き戻しで繰り返し見た時に、何が起こるか想像すると、ボールの動きが同じであることが想像し得るだろう。(巻き戻した時、息子の手から父へボールが移動したように映像には映るわけだから)これは、物理的法則では、「過去→未来」と「未来→過去」の映像の区別が付かないことを示している。要するに、時間の方向に定めがないのだ。すなはち、可逆が成立するってことだ。すると、飲んべえの俺は二日酔いには、ならずに済んでしまう。それが、この映画で、弾丸が銃口に戻る現象を成立させるための「エントロピー」という考え方である。乱雑を意味する、この言葉だが、通常の時間軸の流れ(過去→未来)では、エントロピーは増大するとされている。ただし、実際には、時間が過去に向かって流れることも可能で、ニュートン力学でも、アインシュタインの相対性理論でも否定されていないんだとか。このエントロピーの現象こそ、TENETであり、可逆性なのである。

大迫力!スパイ映画としても第一級品!

そんな可逆が成り立ち、単なるタイムトラベル映画とは一線を画する発想で奇跡のような映像で革命をもたらせた『TENET』であるが、特に印象的なのが、高速のシーンと、飛行場のシーン(今回もCG無しで派手にブチ上がってました!)と、ラストシーンである!


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まず、圧巻なのが、高速道路の壮絶なカーチェイスのシーンだ。時間に順行している車と、時間に逆行している車が入り乱れる凄まじいシーンだったが、バックで走ってる車があることに違和感を覚えたのだけども、それも、主人公は時間に逆行しているが、車などの物質は時間の流れに順行してるからに過ぎない。「過去→未来」(順行)と「未来→過去」(逆行)が同時に起こりうるなんて緻密な描写である。ある種の奇跡だ。

それと、危うく圧巻通り越して失禁しかけるほどの衝撃だった、飛行場の格闘である。順行する主人公たちは謎の兵隊と戦うわけだが、それは、逆行した主人公たち自身だったと。これもCG加工でやっちゃえば、なんでもないことなんだろうけど、順行の次に、逆行の演技を実際にやらせているわけでしょ? 床を仰向けで這いずる時とかね、ああいうのは物凄い演出力だと。

分からない心地良さ!ハマればハマるほど癖になるTENET沼!

ここまで徹底的に緻密に回文構造を組み立てたノーランは、これ、もう人間じゃないなと思った。それも、コンセプトとして時間の概念を設定したはいいけど、スパイ映画としての完成度にも(むしろ、そっちの物語の組み立てに)力と時間を注いだというノーラン監督の言うとおりに、その娯楽性は極上レベルで、『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』の如く、体験したことの無い世界に引き釣り込まれた。


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とにかく、二度三度観なければならない映画に違いない!僕は性格的に同じ映画を二度観ることが座禅組む以上に苦痛なのだが、これは別格!観なければならない!そして、予習が必要な映画なんて糞食らえと思ってるタチなのだが、これほど、予習復習の楽しい映画もそうそうない。これら含めて、TENET体験。素晴らしいとしか言いようが無い。

コロナ禍における最初のハリウッド大作と言えよう、この映画がヒットすると言うことは、映画が産業として死んでないことを意味する!是非、映画館で何度も足を運んで観て頂きたい、そして、皆で悩みたい、そんな映画だ。本当に素晴らしい!

(文・ROCKinNET.com編集部)
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