映画レビュー

『15時17分、パリ行き』でハッキリした、映画に役者が絶対必要である理由とは?

©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT INC.


まず大前提として明確にしておきたいのは、この映画で描かれているテロに立ち向かった当事者達の行動は、心から賞賛すべきことに異論はない。トラウマになって然るべき事件の再現に関わる精神力というのは並大抵のことではないと思う。普通ならば嫌な記憶は風化させるべきだし、人間の脳はそういう作用も持っているから。それは精神衛生上にも、自分を守るという意味において。けど、そんなトラウマ体験に再度挑んだ演者たち(本人)の勇気に感銘を受ける。

ただ、「これって映画なのかな~?」と首を傾げてしまった。まるで、笑福亭鶴瓶と中居正広の「世界仰天ニュース」だ。再現VTRでしかなかった。やはり役者を起用すべきだったと思う。当たり前だが、子役の方がプロって感じがしてしまって、大人になってからのエピソードが際立っていない。もっとも称賛すべき行動が霞んでしまうのは非常に勿体無いことである。

そもそも、映画とは虚像だからだ。実話ベースにせよ、ドキュメンタリーでない限りは作り物である。その中で、どのようにリアルに近付けるのかが映画監督の手腕であるし、虚像を通して真実を感じ取るのが映画体験だと思う。だからこそ、本人ではない偽の人間(=映画俳優)が必要なわけだ。




テロ映画ではなく、英雄の人生を描いた実録映画と捉えれば良いのだろうけど、自撮り棒片手に観光地を回ったり、女の子と遊んだり、クラブで羽目を外すといった若者のヨーロッパ旅行を延々見せられたのはしんどかった。この映画で掘り下げられるべき事項は、そんなことではないはずだ。非凡な人生ではなく、この映画で描かれた英雄たちは、ごく平凡な若者であることを示したことでは成功しているにせよ、なぜ英雄に成り得たかまでは描かれていない。英雄賛歌にも至らない。彼らの生い立ちに関しては、どちらかと言えば淡々と客観視しているようにも思える。リアル追究とは結びつかなかった。

イーストウッドが才能豊かな唯一無二な映画人であることは重々承知である。普遍的な正義を描いたことに本作の意義を感じるが、ここのところのイーストウッド作品には妙に賛同しかねることが多々ある。特に日本では『アメリカン・スナイパー』にせよ『ハドソン川の奇跡』にせよ、多少、過剰な評価が続いているようにも思える。一貫としてヒロイズムを描いているが、ドラマ性に乏しい。道徳的だし、名誉なテーマばかり挙げられているにせよ、映画的な醍醐味に欠けていることが惜しくて仕方ない。本作で、またその不甲斐なさが更新されてしまった気がする。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. THE ORAL CIGARETTES山中がビバラでUVERworld TAKU…
  2. 『いぬやしき』興行失敗で垣間見える漫画原作映画の限界~世間はエグさに飽きている
  3. 初の武道館公演を控えるマイヘア椎木ってナゼ好かれるのか?彼の魅力を挙げてみる!
  4. 【追悼】アメコミ界の巨匠スタン・リー逝去~映画カメオ出演を振り返る~
  5. 第10回 独断で選ぶ素晴らしい邦楽たちTOP10 2018

関連記事

  1. 映画レビュー

    『メアリと魔女の花』が駄目だった理由は完全に宮崎駿から解放されてなかったからだ

    アニメ映画というのは少なからず何か心に残るシーンと言うものがあろう…

  2. 映画レビュー

    米国保守の象徴が自省を込めた『運び屋』はイーストウッドの贖罪映画である!

    御年88歳で監督主演、90歳を演じる超人イーストウッドイースト…

  3. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】この世界の片隅に

    日本という国が、この映画が口コミで好評を呼びヒット…

  4. 映画レビュー

    『空飛ぶタイヤ』池井戸潤が感じる自分の正義を庶民的正義と重ね合わせた大衆娯楽の鑑のような傑作!

    池井戸原作の映画を楽しみにしていた。初の映画化である。彼の作品は現…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. 音楽

    【FUJI ROCK直前特集 Part.2】音楽に政治を持ち込むのは是か?非か?…
  2. テレビ・芸能人

    テレ朝スーパー戦隊の放送時間変更の暴挙は吉と出るか?
  3. ハリウッド

    SW史上最大の被害者?ダース・モールその悲劇の人生を徹底解析!
  4. ハリウッド

    今夏最大の話題作『パワーレンジャー』に同性愛描写で再び波乱の予感
  5. ライブレポート

    ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017 3日目ライヴレポート
PAGE TOP