映画レビュー

群像劇の大傑作『パトリオット・デイ』を観て感じるテロ時代のリアル

image source:http://www.imdb.com/title/tt4572514/mediaviewer/rm3699836416
© 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.


これぞ、刑事映画だと太鼓判を押したくなるような大傑作だった。この映画は、2013年のボストンで起きたテロ事件を基にしているので、映画として、娯楽として消化することが、如何に不謹慎であるかは十分に理解しているつもりだ。犠牲者のご冥福もお祈り申し上げる気持ちは当然ある。
ただ、この映画は悲劇の記録映画として機能する以上に、完璧なまでの映画的な醍醐味をも併せ持ってしまったようだ。こんなスリリングなサスペンスを観たのは久々だ。

言ってみれば『踊る大捜査線』をハリウッドが本域でやったら、こうなるという指標。本来は『踊る大捜査線』の本広克行監督は、音響の大きさ、編集の細かさなど、日本映画・ドラマの定説を打ち破って、ハリウッド的な作品作りをしたかった監督のハズだが、本家と比べてしまうと、そのみみっちさが際立ってしまったようだ。日本の刑事映画の金字塔でもある『踊る~』は、軽快なギャグと、所轄(庶民派)肯定と、キャリア批判に終始してしまった。事件を解決するカタルシスや、肝心のヒロイズムよりも、共感性をうたって終わったに過ぎない。何も心揺さぶられるものは無いし、スリリングな展開も見せなかった。

しかし、この映画は違う。実際に起こった事件を描いているとは言え、だからこそか、徹底的にスリリングなのだ。実際の監視カメラ映像も使われ散ることも大きいだろう。ついこの間、アリアナ・グランデのコンサート会場はじめ、英国でテロが頻発している昨今において、その防止の困難さや、犯人の身勝手な言い分が、妙にリアルで恐ろしい。広義的に見れば、テロもイラク戦争の報復と言えるかもしれない。しかし、個人的な意見としては、テロに肯定の余地はないと断言する。

劇中では、犯人の妻が尋問されるシーンで、「シリアでは毎日多くのイスラム教徒が犠牲になっている」と言う台詞にも表れているが、双方の思想や言い分が交わらないことにこそ、現代の闇が生まれるきっかけとなっている。アメリカが正義で、テロ組織を悪とする、昨今のイスラム差別を助長しかねない、トランプ大統領の発言や、海外ドラマの描写のような、単純な一元論ではないことも、この映画は示す。もっと奥深いところに問題は根付いていることを諭されているようだ。

また、この映画は本当に多くの登場人物が描かれる。ケヴィン・ベーコン演じるFBI特別捜査官や、J・K・シモンズ演じる老保安官。幸せな日々を送る若いカップルや、飲食店の女性に思いを寄せる中国籍の男性。一見、無関係だと思う、各々のキャラクター(実際に存在する人物)が、このテロ事件に次第に関わっていく回収法が見事なのだ。この映画が、優れている点は、この伏線の張り方にあった。これほど成功した群像劇も、なかなかお見かけすることは出来ない。『踊る~』ばかりを否定するのも申し訳ないが、織田裕二の好感度ばかりを無駄に描くのとも違う! この映画は主人公である、マーク・ウォールバーグのヒロイズムさえピックアップしないのだ。テロに関わった人間ひとりひとりの心情を丁寧に描くことで、事件の関係者の心情を深く掘り下げている。だから、余計に感情移入してしまう。

最終的にテロには屈しない姿勢と、それに立ち向かうのは“愛”であることをメッセージとして残すわけだが、美談では済まされない現状を憂う気持ち、テロに対する断固とした否定的な態度も改めて持つべきだと気付かされた。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 『茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~』からサザンがエロスを歌う…
  2. 遂に日本国内興収100億円突破!『ボヘミアン・ラプソディ』はアカデミー賞を獲れる…
  3. パリピが日常悩んでる嫌なことって何?ストレス溜めない極意がULTRA JAPAN…
  4. サンボマスター vs My Hair is Bad 男どアホウ夏の陣!日本ロック…
  5. 『いぬやしき』興行失敗で垣間見える漫画原作映画の限界~世間はエグさに飽きている

関連記事

  1. 映画レビュー

    『エイリアン:コヴェナント』種の誕生と起源に迫るスコット監督の鬼才に慄く

    本来のSFホラー回帰した、スコット監督の気迫が感じられる力作だ…

  2. 映画レビュー

    驚異の技術力を示した実写版『ライオン・キング』だけど失った物もある・・・

    驚異的な再現力に脱帽としか言いようがないオリジナルに忠実に再現…

  3. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】パッセンジャー

    誰かに求められること、他人を意識した言動が意味を成す。対象があ…

  4. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】SCOOP!

    この国のジャーナリズムとは何か?それを『モテキ』や…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. ニュース

    アリアナ・グランデのライヴ会場で起こった爆発テロについて
  2. ニュース

    原爆シャツ騒動でMステ出演中止になったBTSが犯した罪とは?
  3. ライブレポート

    ポール東京ドーム初日を観た!
  4. ハリウッド

    年収50億のジョニー・デップが破産寸前な理由とは!~お金について考える
  5. 音楽

    【FUJI ROCK直前特集 Part.2】音楽に政治を持ち込むのは是か?非か?…
PAGE TOP