映画レビュー

【ファン・関係者御免!】これほど共感できない作品も珍しい『東京喰種』を徹底批判!

© 2017「東京喰種」製作委員会


漫画原作を読んでいない者が、たった二時間程度の実写化を観て批判するのは、作品の奥深さや本質を理解していないと馬鹿にされるだろう。そんなことも重々承知なのだが、それでも、これほど自分の価値観の合わない映画も珍しいと思った作品だった。

要は通常は駆逐される怪物側(少数派)の視点で正義感や倫理観、その葛藤を描いたことが斬新で評価された漫画なのだろうけど、人間を喰らう「喰種」に肩入れするという視点は、どうにも理解しがたい。あくまで映画というものは、人間社会の肯定と批判の上で成立する。批判も結果、肯定に繋がるための批判であるべきだ。この『東京喰種』には感じられなかった。

このもどかしさをどう表現したらいいか悩んでいた。では、分かり易く喰種をライオンに例えればいい。人間しか喰らわない喰種と、ただの肉食獣のライオンを同列にすることは必ずしもイコールではないことは分かっているが、東京に数百のライオンがいたらどうなるか? 人間の食べ残した残飯を食えば飢えを凌げるなどの屁理屈抜きに、現実問題として考えてみれば、捕獲、駆除して当然だろうし、市民もそう願うことだろう。猿一匹が住宅街に現れては大騒ぎするのだ。絶対に、リアリティで考えれば、そうなる。
共存なんて出来ない。共存が出来なければ人間側としては駆除しようとして当然。これは、マイノリティ批判ではない。人類の存在が脅かされたら、相手の事情を汲み取ってる余裕はない。では、あなたはライオンがいる渋谷で、自分が喰われるかも知れないのに109で買い物したいと思うか? 友人が街中でライオンに襲われたと聞いてライオンだって生きてるんだ、俺らが餌になっても仕方ない! 本当に、そう思えるか? 俺は思えない。この作品で言う「喰種」の正義感、価値感への共鳴というのは、そういう「非人間性」にあると思った。

[PR]

この作品でも、喰種と人間の両者に犠牲が出て、各々の正義感が描かれている。自分以外の、例えば、宗教、人種、趣向・価値観を持った人間への理解にも通じているような気がしたが、何も多様な価値観を認めないと言っているわけでは無い。人間を喰らう怪物の正義感、主演の窪田正孝が最後らへんで叫ぶ「あなた方の一方的な正義も違うと思う」という台詞に1ミクロンも共感できないだけ。
人間だって多くの種の命を奪い、それを食べて生きている。しかし、食というのは文化である。人間を喰うのは文化ではない。それは異常としないと、食糧不足に陥った時に世の中『羊たちの沈黙』『ハンニバル』のレクター博士だらけになってしまうし、人間性の崩壊を招くだろうし、人としてやってられないと思う。
「喰種は人間(一種)だけしか喰わないが、人間は牛、豚、鶏と多様な生命を奪っているではないか」なんて議論をしている馬鹿がいたのを見かけたが、根本的な部分が失われているように思える。この程度の漫画で人間性を失わないでほしい。

そもそも善悪が反対だ。勧善懲悪で片付けてはいけない複雑な漫画なのだろうし、本来はそういうメッセージではないんだろうけど、如何にも喰種が正義のヒーローで、それを駆逐しようとする大泉洋(彼の演技には毎回圧倒される)と鈴木伸之が対峙するカタキのように描かれるのは、違和感しか覚えなかった。

あと、最近、窪田正孝が過剰評価されている気がしてならない。いつ観ても「デスノート」なのだ。要は、感情を高ぶらせて、わめき散らす演技。どれ観ても一緒。この映画でも、そんなシーンばかりで、彼の表現力の広さを感じるには至らなかった。こういう漫画原作なら致し方ないのかもしれないが、もっと違った側面をそろそろ見たいものだ。決して嫌いな俳優ではないので。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

[PR]

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 【速報ライヴレポ】ハリー・スタイルズ初ソロ来日公演を間近で観た!彼こそ時代の寵児…
  2. 安室奈美恵の引退への想い~安室という現象が現代の日本女性像を変えた~
  3. 世界で大ヒット中の映画『スパイダーマン:ホームカミング』の主人公トム・ホランドの…
  4. またもコンサート会場が狙われる「米国史上最悪の銃乱射事件」から音楽ライヴ運営の将…
  5. エルレ細美が「待った!」転売野放し・・・チケットだけじゃないライヴ物販問題を考え…

関連記事

  1. 映画レビュー

    『イコライザー2』根底にあるのは水戸黄門のような勧善懲悪だからこそ観てて爽快!

    正義の貫徹というド直球な設定が気持ち良く、前作では理不尽な悪に虐げ…

  2. 映画レビュー

    『キングスマン ゴールデン・サークル』エグさ健在!カッコ良さ健在!続編大成功!

    アクションの描き方も相変わらずの巧さだし、それに伴う音楽の使い…

  3. 映画レビュー

    絶対的なエンタメ性!これぞ娯楽作の鑑!『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』

    これぞ娯楽の鑑だ! 何なんだろう、この安定の絶対的なエンタメ性…

  4. 映画レビュー

    アニメ革命を起こした大傑作『スパイダーマン:スパイダーバース』に拍手喝采!

    とんでもない傑作アニメ映画を観た歓喜で震えている。アニメ界…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. 音楽

    【徹底考察】ビルボード1位、米英人気過熱、国連演説・・・勢いが止まらないBTS(…
  2. 邦楽

    松任谷由実「恋人がサンタクロース」がクリスマスは恋人と過ごす日という社会的呪縛を…
  3. 邦楽

    勝手に選ぶ素晴らしい邦楽たちTOP10 2017
  4. ライブレポート

    【ライヴレポ】ワンオク初の東京ドーム公演で見た“世界基準のバンドの風格”に圧倒さ…
  5. 映画レビュー

    勝手に選ぶ今年良かった映画TOP10 2017大発表!
PAGE TOP