まず、この映画を見るにあたって必要なのは、FOXというチャンネルがどういった経緯で誕生し、どのような視聴者層に指示され、政党と結びつきがあるのかを抑える必要があろう。
英国のサッチャー時代に、福祉削減や富裕層の減税(めちゃくちゃ)をやるにも関わらず、労働者たちに「福祉なんかに頼っちゃ情けないぜ」みたいな政治論調で大衆扇動してしまったルパート・マードックってメディア王が米国で同じことをやろうとして立ち上がったテレビ局がFOX。そのトップに抜擢されたのが、当時のニクソン大統領のメディア戦略を任されていたハゲ親父のロジャーで(この映画でセクハラしまくる親父っすね)、彼は元から共和党の人間なので、だからFOXは共和党をヨイショする目的で作られたテレビ局、右派思考の保守層が好き好んで見るチャンネルであると。
で、このFOXってのは、パパブッシュの選挙時に対立した民主党候補が州知事時代に犯罪者をむやみに保釈していたっていうデマCMを流して、選挙で勝たせちゃうなんて完全アウトだろってことまでやっちゃう。だから、クリントン大統領の例の「不適切な関係」なんか連日特集しまくって民主党バッシングするとかね。
セロンの激似メイクに驚愕しながらセクハラ撲滅MeToo映画でもあるが、最も肝心なのは、数々のフェイクや過激報道を繰り返してきた共和党の飼い犬テレビ局であるFOXとハリウッドの対立構造の象徴ってのが『 #スキャンダル 』です。原題はbombshell…おっぱいバーン&大暴露の意。 pic.twitter.com/NXasCtdULM
— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) February 17, 2020
だから、この映画の冒頭で、シャーリーズ・セロン演じるメーガンがトランプ批判をした瞬間から「裏切り者!」みたいなレッテルを貼られて、保守界隈から、とことんバッシングに遭うのは、そういう背景があるわけだ。
元は彼女もオバマ政権時は徹底的に批判報道をしてたんだけど、有名な「俺はセレブだから女性の股を掴んでも許される」などの女性蔑視や差別発言の酷いトランプになったら風向きが変わってきた。FOXも流石に大統領にならないと思ってたから、トランプ潰しを指令してたらしいんだけど。
当然、トランプは激怒して「あのメーガンってイカレ女」と得意のTwitterで攻撃して「メーガンは怒り狂って目から血が出そうだった。たぶんアソコからも出ているぜ」なんて最低なことを言われる始末。
結局は、メーガンが折れる結果になる、トランプ人気が意外に高くなったから。ただ、調度その時に、メーガンと局の人気を二分する看板キャスターのニコール・キッドマン演じるグレッチェンが解雇になって、その直後に、彼女はFOXとトップのロジャーをセクハラで訴えた。そこで、メーガンもハッとするわけだ。私もやられたと。ここまで来たら、もう政治的嗜好なんて関係ない。女性たちよ、今すぐ立ち上がれと!
もうね、最近はハリウッド映画観ててもMeToo疲れして、段々とフェミニズムの暴走の気風とすら感じてたんだけど、これだけぐうの音も出ない女性たちの不遇な在り方を見せられては、この運動が起こり得て起こったものだと納得せずにはいられない。しかも、それがガチガチの保守局内で起こったという皮肉が滑稽でもある。一番はそこに興味があった。どういう心境で訴えに出たんだろうと。シャーリーズ・セロンの怒りを奥歯で噛みながらも、感情が抑えきれない絶妙な演技は凄まじかったなぁ。圧倒されてしまった。
『バイス』なんかも最高な風刺だったけど、こういう最近の実話に基づいた話を実名用いて作っちゃうことが凄い。日本でも、某記者が女性ジャーナリストをどうのこうのって事件があったけど、報道すらされない。ここがアメリカと日本の決定的な差で。映画でも報道でも、対峙する姿勢が違うなと、その「絶対に映画化してやるんだ!」っていう気迫に脱帽するしか無い。政権とかジェンダーとか以前に、この映画で描かれる正義ってのは、人として生きる上での尊厳の重要さ。理不尽で苦しめられる愚かさ。立ち向かう勇気。
そんな巨悪に立ち向かう女性たちのヒロイズムにスカッとする快作、いま絶対に観るべき映画であることは間違いない!
(文・ROCKinNET.com編集部)
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