映画レビュー

『君の膵臓をたべたい』が駄目な理由は物語構築上で最もしてはいけない禁句を犯しているから




© 2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 © 住野よる/双葉社

セカチュウから13年、世間は再び難病恋愛物語を好んだ!

膵臓を食べる?ゾンビ映画?タイトル勝ち!戦略は見事だ!

日本中に悲恋ブームを巻き起こしたセカチュー。難病モノとカテゴラズされるほど、類似した小説や映画が誕生した。とにかくヒロインを病気にさせて、無理矢理にでも観客(読者)の涙腺に訴えかけ感動させる。この手法は一大ブームを巻き起こすも次第に、あざとさが先行し、大衆が興味を失い飽和期を迎える。あれから13年、再び大衆は同カテゴリーの悲恋物語を求めた。

それが2016年、出版不況と言われる現代において、累計発行部数200万部の大ヒットを記録した『君の膵臓を食べたい』。「レクター博士の話か?」と思った。ホラーチックなタイトルにして、恋愛モノばりばりのポスター。ギャップによって大衆の興味を惹くという、原作者の作戦勝ちだ。最後まで小説を読めば(映画を観れば)、この言葉の真意に涙するということで、非常に楽しみにしていた。そして、ガッカリした。

※注意※
ここから先は若干のネタバレを含みます。まだ本作を鑑賞していない方は、閲覧に十分お気をつけ下さい。
また、内容に否定的な意見もございますので、ご覧頂く際はご承知の上、お読み頂くよう、よろしくお願いいたします。



キミスイが犯した物語構成上の最大のタブー

まず、このキミスイは物語を構築する上で最もやってはいけないことを犯した。
残念なオチに幻滅すらしたのだ。ネタバレになるので、どこまで書いていいものか非常に難しいが、物語には本筋というものがある。この“キミスイ”では、膵臓の難病を抱える少女と主人公である“僕”が、不器用ながらも惹かれあうところに話の核がある。ところが、少女の命はそれとは全く無関係なことに起因して奪われる。同じように難病と闘う方に対しての配慮も無ければ、デリカシーも無いと思った。難病だからといって余命を全うできるとは限らないと映画でも言うが、それを小説や映画で言ったら身も蓋もない。今まで観させられてきたものは何だったのか? これは観客への裏切り行為にも等しい。

今まで見てきたものは何?と言わんばかりの脱線に幻滅。

例えが下手だが、世界的に最も有名な悲恋映画といえば『タイタニック』だろう。タイタニック号が氷山に衝突することで、ディカプリオとケイトは死別するが、氷山にぶつかる前にディカプリオが原因不明の疫病に掛かって亡くなった・・・・・・というなら、この悲恋を描くのにタイタニックじゃなくていいわけだ。
それと一緒。キミスイの物語展開なら、何も少女に膵臓疾患という酷な宿命を背負わせなくていいし、フィクションとは言え、本筋から掛け離れた悲劇を描く必要もない!


感動ポルノを良しとしない風潮の末路は障害への無関心では?

数年前、24時間テレビを「感動ポルノ」と揶揄した障害者が話題となった。障害者が健常者の見世物化していることへの問題提起であり、障害や病気を持った方も特別視しないという思想。障害者に過酷なミッションを与えて、感動を押し売ることに障害者当事者は不快感を示す人も多いという指摘。確かに、そういう意見もあって然り。
ただ、個人的には、その風潮に疑問を感じずにいられなかった。この発想には愛が無いと思って。そもそも、美談なくして障害を取り扱ったものが娯楽になり得るのか? 実は世間の視点は残酷だ、感動ポルノの機会を与えないと障害者に興味は湧かない、意識することも無い。感動ポルノするな、特別視するなという風潮、これが常套化すると障害への無関心を助長させると思える。

障害や難病の普遍を絶妙に描いた『きっと、星のせいじゃない』

障害の美談化の加減。この加減について、よく出来ていたのがシャイリーン・ウッドリーとアンセル・エルゴート共演の『きっと、星のせいじゃない』だった。病気を扱いつつも、辛気臭くない明るい話。また、劇中でウィレム・デフォー演じる小説家が、病気のカップルに辛烈な暴言を吐きまくる。感動もへったくれもないほどに。感動ポルノに傾倒することもなく、かといって普遍性に傾倒することもない。絶妙なバランスを保った話だった。
キミスイは感動ポルノに相反することで、難病の少女に普遍性(健常者と同じ立ち位置)を持たせたつもりなのだろうが、突拍子もない変化球は観客を馬鹿にしていると思う。


時流を掴んだ恋愛設定としては秀逸だった

ただ、このタイトルは非常に考え抜かれたものだなと思った。“君の膵臓を食べたい”の真意は、身近な例で言うと「爪の垢を煎じて飲め」の発想。お互いの人間性に敬意を示す愛情表現を、こういった表現で描く発想は凄い。
また、イマドキの話だなと思ったのが、現代っ子の不器用な恋愛を象徴していること。女子主導の恋愛を描いていることである。宇多田ヒカルが出現した以降、女性が男性を「キミ」と呼ぶようになり、男女の恋愛において主導権が男性だけには無いという価値観になりつつある時代性の反映が見事にされており、この小説が現代に受け入れられた理由も納得できた。だからこそ、きちんと悲哀のラブストーリーとして、難病を扱った責任を、この映画は果たすべきだった。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。


 

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