映画レビュー

映画は権力の腐敗を許さない!『新聞記者』は風刺精神を捨てない映画の鑑だ!

(C) 2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

最近のネット界隈に疲れている。狂信的に現政党を支持するネトウヨと、ムキになって現政党を批判する左翼思想が連日ネットの世界で喧嘩をしているのに飽き飽きしている。面倒くさい。アメリカの如く日本も分断された。どっちの意見にも加担する気はない。全部が全部を支持するとか、不支持に回るとか、物事ってそう二元論でスパッと分けられるはずもなく、政治ってのは、そんなに単純なもんではないと思っている。

今回思ったのは、映画はプロパガンダでは絶対に駄目ってこと。ヒトラーが多くの支持を得るために利用したのが映画だったことを考えれば、時の権力に是でも非でも、そのメッセージは政治的であってはならないと思っている。映画は大衆心理を先導する道具であってはならないと思う。じゃあ、何であるべきかって? 娯楽だよ、娯楽。しかし、チャップリンがそうだったように、映画は「風刺」することがある。記憶に新しいのは、チェイニー副大統領を描いた『バイス』、あれも究極の風刺だった。『大統領の陰謀』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』『スポットライト 世紀のスクープ』なんかもそう。日本では、この手の作品は見かけることが少なかったが、この『新聞記者』の登場で、メディアとしての役割を映画が果たしていたことに、この映画の存在意義はあると思う。



実際に観て、日本の社会派映画史にガッツリ爪痕を残した意欲作であり、日本映画の本気度を感じたことは確か。この映画を観て政治的信条にそぐわない人も中にはいるのも理解し否定はしないが、公文書すら黒塗りされて真実が隠されてしまうような国家権力が腐敗した時に、その疑問提起をメディアすら怠った由々しき現代で、表現の自由を盾に、時代を正直に映し出す役割を、まさか映画が成し遂げるとは。その使命を果たしたのが、この『新聞記者』なかなか骨太な映画作家が、この国にいたことに喜びを感じるのである。これが黒澤明だったら、伊丹十三だったら、周防正行だったら、森達也だったら、是枝裕和だったら、どう描いただろう。



それと、松坂桃李が、まぁ素晴らしいこと! 己の正義感と葛藤する表情は絶妙。いつの間にか凄い役者になったもんだ。『娼年』の感情が抑制された大学生とか、『居眠り磐音』の頼りない侍とか、陰のある人物像がうまい! 『ガッチャマン』演じた役者とは思えない急成長ぶりだ。彼のような旬な一流俳優が出たからこそ、この映画は窓口を広げたし、これが売れてない俳優だったらVシネと大差ない小作になったと思う。それほど役者のネームバリューの重要性を感じ、松坂桃李の役者としてのポリシーに信頼度が増した。正直やりたくない類の映画だろうけど、余計にファンになった。
ただ、主人公の女性が日本人女優じゃないのが頂けなかった。別の意味で日本中を驚かせた蒼井優や、演技派の満島ひかりに「政治色が付くのが嫌だ」と拒否された挙げ句に、韓国女優の起用とは情けない。カタコトの日本語には迫力がなく、どことなく説得性に欠けた。上野樹里とかだったら、もっと鬼気迫る映画になったと思う。

人それぞれ思うところがあるんでしょうけど、この映画を肯定するも否定するも、政治に興味がある証拠でもあるので、それはそれで様々な意見は尊重すべき。松坂桃李が言う「無関心が無難」な傾向は駄目ね。『バイス』のラストに出て来る保守とリベラルの男性同士の喧嘩の横で若い女性が言う「今度の『ワイスピ』楽しみじゃね?」が最も駄目だから(笑)

(文・ROCKinNET.com編集部)
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