映画レビュー

【映画レビュー】演技派シャラメの片鱗が垣間見える、Netflix本気の史劇『キング』




© Netflix

王様って実に不自由な職業だと思う。正室の長男なら、生まれた瞬間から人生の全てが決まってしまうのだから。当然、そんな中で、やる気のない王様が出てくることだって、そりゃあるだろって。この映画『キング』で今をときめくティモシー・シャラメが演じる主人公がヘンリー五世は、生誕時に既に従兄が英王を務めていたから、「どうせ俺に王位は来ね~や」とテイタラクな生活をしてたと(長髪で堕落したダメンズっぷりが意外にもシャラメに似合っている)。
しかし、王位が従兄弟側から自分側に映ったことで、将来を真剣に考えなければならなくなり、王として覚醒するまでの成長物語を描いたのが、この映画。シェイクスピアが元ネタだとか。



史劇の傑作と言えば『ベン・ハー』や『ブレイブハート』『グラディエーター』のように筋肉隆々の英雄が暴れるイメージが強いが、それとは異なり華奢なシャラメが主人公というところが今っぽいし、無駄な争いを避けようとする異質な王が描かれている。
実際のヘンリー五世は、軍事能力に長けていて、何回も国内での反乱を収めていたんだとか。思えば、劇中でも戦争をそつなくこなしてるから、軍事スキルの高いヘンリー五世像はしっかりと描かれているんだなと思うが、和平を望むようなアイドル的な脚色?部分はシャラメだからこそ成立し得る今時の国王像だと感じた。
それを支えるジョエル・エドガートンの頼れる兄貴的右腕感も最高にかっこいい。

© Netflix

従来の史劇と比べれば迫力に欠けるものの、綺麗事だけじゃ済まないことばかりで、歴史が作られるとはこういうことなんだと未熟王と共に感じられる久々に濃い歴史モノだったと思う。
同時に、将来ハリウッドを背負う存在になるかも知れないシャラメの初の時代物という意味合いでも見応えはあろう。同性愛に揺れ動く青年、女性を虜にするイケメン、麻薬中毒の青年、若草物語で演じた富裕層など、どちらかというと「軟弱」だったり「優男」な配役が多かったが、戦闘直前に王として民衆を奮い立たせる台詞を叫ぶ姿に、シャラメの新たな演技派としての一面を垣間見ることも出来て嬉しい。イギリス訛りも完璧で高評価だ。

何よりも、この映画の存在意義は、Netflixが本気出せば、ここまで本格的な史劇も作れるという一種の指標にもなっていることで、その高いクオリティには驚かされた。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。



◆関連記事◆




 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 【ヒットの勝算はネット戦略にあり?】恐怖のピエロ映画『IT』が公開第三週で興収首…
  2. 【大混戦】#TimesUp運動の影響で本年度オスカー主演男優賞はティモシー・シャ…
  3. 実写化史上最も成功していると言って過言でない『美女と野獣』に感動する
  4. 【フジから若者が消えた?】フェスの“聖地”フジロックが中高年化している問題。若者…
  5. 映画『アントマン』では味方だった猛毒蟻“ヒアリ”について徹底解説!

関連記事

  1. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】モアナと伝説の海

    冒険活劇として一級品だった。まるで『マッドマックス 怒りのデスロー…

  2. 映画レビュー

    二兎追う者は一兎も得ず?『女王陛下のお気に入り』は権力に奢れる人間の愚かさを描いた愛憎劇

    アカデミー賞はこの映画の何が好きだったの?英国王室・衣装メイク…

  3. アカデミー賞

    【映画鑑賞日記】メッセージ

    宇宙人襲来映画は腐るほどあるが、その中でも群を抜いて素晴らしい…

  4. アカデミー賞

    『シェイプ・オブ・ウォーター』の成功の理由は異質との性描写で逃げなかったことにある!

    異物との性描写を逃げないからこそ究極の愛が描けた甘美で倒錯的な…

  5. 映画レビュー

    『僕のワンダフル・ジャーニー』気持ち良い涙が流せた素敵な続編☆

    まさかの続編も号泣必至の心温まる感動作!続編は犬中心ではなく、…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. テレビ・芸能人

    テレ朝スーパー戦隊の放送時間変更の暴挙は吉と出るか?
  2. ハリウッド

    【勝手に大予想】ダニエル・クレイグ007卒業で次のボンドは誰になる?
  3. ライブレポート

    COUNTDOWN JAPAN 1718 3日目ライヴレポート
  4. ライブレポート

    【ライヴレポ】ワンオク初の東京ドーム公演で見た“世界基準のバンドの風格”に圧倒さ…
  5. 邦楽

    安室奈美恵の引退への想い~安室という現象が現代の日本女性像を変えた~
PAGE TOP