映画レビュー

二兎追う者は一兎も得ず?『女王陛下のお気に入り』は権力に奢れる人間の愚かさを描いた愛憎劇

© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

アカデミー賞はこの映画の何が好きだったの?

英国王室・衣装メイク・女優の評価

アカデミー賞は英国王室が大好きだ!
この映画もNetflix配信映画『ROMA/ローマ』と最多タイ10部門にノミネートされているとか。基本的に衣装・美術部門で秀でた映画に違いないが、もうひとつ挙げるとすれば、やはり三大女優の演技合戦であろう。オスカー主演女優賞を獲得したオリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズ、エマ・ストーンの演技派の見事なまでの泥沼劇。鑑賞後スッキリせず、むしろ苛立ちと虫唾が走る思いしかしなかった。エマの性悪さは、『ラ・ラ・ランド』の感動返品しますッ!ってほどの強烈なインパクトで、女王陛下の側近として仕えるレイチェルとの立場が逆転していく様が胸糞悪くて仕方が無かった。

[PR]

掻い摘んであらすじを言うと・・・

グレートブリテン王国最初の君主であり、スペインやフランスとの戦争を世界各地で繰り広げたオリヴィア演じるアン女王は、実は痛風や肥満に苦しみ、遂には精神的に憔悴していた。側近のレイチェルはスパルタ教育で鞭を打ちながらも、飴を与え(レズ行為)、政治を代わりに司っていた。その隙を見て、エマは女王に飴だけを与え側近として頭角を現す。どこか情に脆いレイチェルの御人好しな部分に付け込んで。邪魔者であるレイチェルに毒飲ませたり、やりたい放題。決定的に立場が逆転するきっかけとなった、女王がレイチェルに言い放った「あの子は舌でしてくれる」は強烈過ぎた。

© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
『ラ・ラ・ランド』の私は私じゃなくってよ!笑

性悪エマの圧勝で大奥的な見所に乏しい・・・カモ

結局はレイチェルは国を追われてしまうが、この手の泥沼劇を期待してた者としては、女同士の対決が見たかったに違いない。私はそうだった。一方的なエマの過激な攻撃ばかり目立っていた気がする。やられたらやり返すくらいの反撃も見たい気がした。結局、史実を基にしている映画だけに、虚構は描けないにせよ。ただ、エマ演じるアビゲイルは、歴史上ではそんなに重要な人物でも無く、専門文献でない限りは名前すら出て来ない程度の人間。アン女王逝去後は宮廷から離れ、20年後に死去している。その間、どんな生活を送ったかまでは分からない。ただ、権力に奢る彼女を、この映画は最終的に最大の屈辱を与える。

[PR]

この映画の鍵は「ウサギ」にある!

そのカギとなるのが、劇中に何度も出て来るウサギである。アン女王はウサギを重宝していた。過去17回妊娠するも子宝に恵まれなかったアン女王は、子供の代わりにウサギを増やしていった。17匹のウサギが女王の部屋にいる。レイチェルは、そのウサギを無視し、女王からの愛情を失う。一方、エマはウサギを利用して女王の寵愛を受けるようになる。
そして、遂にレイチェルを追いやり、望んでいた地位に上り詰めたエマは、ウサギを踏み付ける、それこそ究極の奢りでもあった。

最後はエマに最大の屈辱を与えて映画は幕を閉じる

しかし、それに気付いたアン女王は、初めてエマに「跪け!」「女王は私だ!」と激しく叱咤し、エマを跪かせ、足を揉ませ、頭に手を置く。所詮、お前は召使の一人に過ぎない。代わりならいくらでもいると言わんばかりに。正しくエマの陥落をうかがわせる。表情を強張らせるエマと、ウサギが同列に映し出されることは、女王にとってはエマもウサギに過ぎないことを表し、悪女に最大の屈辱を味あわせて、映画はここで終わる。悪を悪のままのさばらせないで映画は終わったが、残念なことに、この映画に勝者いない。誰も幸せになっていない。結局は権力闘争に溺れる人間は、例え高い地位を手に入れても、本当に意味で満たされないのかも知れないと感じずにはいられなかった。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

[PR]




[PR]

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 何故「バルス現象」は起きるのか?その理由は日本特有の国民性と風土にあった!
  2. 世界で大ヒット中の映画『スパイダーマン:ホームカミング』の主人公トム・ホランドの…
  3. 『君の名は。』遂に北米公開で絶賛の嵐!
  4. 今年2018年のサマソニがガラガラの異常事態!~その原因を探ってみた
  5. エルレ細美が「待った!」転売野放し・・・チケットだけじゃないライヴ物販問題を考え…

関連記事

  1. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】SING/シング

    もしズートピアで『glee』をやったら・・・「My w…

  2. 映画レビュー

    【綾野剛は流石だけど・・・】シュールこそ独自性と勘違いした悪ふざけ『パンク侍、斬られて候』

    劇中薄らとは感じていたけど、エンドロールでセックス・ピストルズが流…

  3. 映画レビュー

    『イコライザー2』根底にあるのは水戸黄門のような勧善懲悪だからこそ観てて爽快!

    正義の貫徹というド直球な設定が気持ち良く、前作では理不尽な悪に虐げ…

  4. 映画レビュー

    久々の韓国映画の成功例『新感染 ファイナル・エクスプレス』の勝算は単純さにあり

    99年の『シュリ』を皮切りに、文化としての成熟度の早さ、高さが凄ま…

  5. 映画レビュー

    【時間の無駄】スマホを落とす前に眠気に落ちそうな『スマホを落としただけなのに』

    映画を観に行っただけなのに時間を無駄にした。今や大半の現代人は…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. 音楽

    ジャスティン・ビーバー新曲のスペイン語が歌えず大ヒンシュクからのブーム化
  2. ニュース

    【徹底考察】『カメラを止めるな!』は何故ここまでヒットしたのか?を真剣に妄想する…
  3. 映画

    日本アカデミー賞とかいう老害賞には文句しか出て来ない
  4. ニュース

    遂にNYタイムズ誌まで?ガキ使の黒塗りメイク批判は行き過ぎだと思う理由!
  5. 音楽

    【この夏も話題独占】ジャスティン・ビーバーの恋愛遍歴を振り返り!
PAGE TOP