映画レビュー

『インクレディブル・ファミリー』14年ぶりの続編でも衰えぬ娯楽性と2010年代に通じる#metoo精神の混合が見事!

(C) 2018 Disney / Pixar. All Rights Reserved.


前作が14年前だというから嫌になる。しかも、ついこの前感があるから余計に嫌になる。『Mr.インクレディブル』は当時のピクサーでも異端な作品だった。それまでは玩具、蟻、モンスター、金魚と、動物や道具など、擬態化されたキャラクターが登場して、人間世界が映画の舞台であったが、スーパーヒーローという浮世離れ感はあるものの、人間の造形のキャラクターがピクサーで描かれるのは初めてであった。そこが、当時は個人的に斬新で、流石のピクサー的発想でもあり、家族が全員ヒーローで特殊能力を各々が持って、そのどれもが欠けてはいけないというファミリー映画になっていたのが凄かった。

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時系で言うと、この続編はその直後から始まるにも関わらず、母親がメインで活躍し父親は主夫に奮闘するというジェンダー意識を反映した、2018年の映画になっているから流石である。『スター・ウォーズ』の新三部作をはじめ、DC『ワンダーウーマン』など、#metoo以降、女性が主役の映画が急増した。ここで問題となることがある。女性が主役でヒーローを務めることに異論は当然ない。しかし、ヒーロー映画というのは暴力が伴う。女性が男性をボコボコにするのは、まだ見るに耐え得るが、女性同士の暴力や男性からの暴力は、どうも受け付けない。女性のボクシングの試合でさえ苦手だ。けど、これも男女差別になるのだろうか? ジェンダー間の溝を埋めるというのは、時として過酷でもあると思った。『ワンダーウーマン』では女性の敵役は怪我ひとつしないで、男性ばかりがやられていた。ああいうのを映画で描いている限りは、何が#metooだって思うのだけども。

長女の恋愛問題、長男の数学苦手問題、赤ん坊の世話など、前作でヒーローとして活躍してきたMr.インクレディブルが、それ以上に苦労する様が面白い。同時に、男性が子育てすることの困難さも描く。ジェンダー格差を無くすことは女性の社会進出と比例して専業主夫も増えなければいければ達成しないという意見もあるように、格差是正といっても、そう簡単にはいかない現実問題を描いているように思える。

ヒーローが過去の遺産で、現代には法律がある以上は、過度な正義は認められないという設定も健在。インクレディブル・ファミリーを悩ませる。同じディズニー傘下のMCU『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でも正義貫徹の際に街が破壊された被害が問題になったように、ただ悪を成敗するでは済まないのが今のヒーロー映画である。単純な勧善懲悪ストーリーでは終わらない奥深さが、物語に深みを与えている。本当に面白い視点だ。

そして、何よりもこの続編で際立っているのが、赤ん坊のジャックジャックの特殊能力のインパクト。分身したり赤鬼になったりと、その能力の高さは計り知れない。まだまだ活躍が期待できそうだ。もちろん、続編を期待せずにはいられない。

(文・ROCKinNET.com編集部)
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