映画レビュー

『空飛ぶタイヤ』池井戸潤が感じる自分の正義を庶民的正義と重ね合わせた大衆娯楽の鑑のような傑作!

(C) 2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会


池井戸原作の映画を楽しみにしていた。初の映画化である。彼の作品は現代社会をリアルに描く。ドロドロした部分も。『半沢直樹』が社会現象になったように、その妙なリアリティが多くの支持を集めた。もはや、月9のようなお気楽な恋愛物語がチヤホヤされる時代に無いと言うことだろう。映画もドラマも虚構ではあるが、薄っぺらさや嘘臭さは通用しない時代、人々は「真」を求めている結果だと思う。
この『空飛ぶタイヤ』然り『陸王』然り、必ず大手企業と庶民の対比がされる。大企業や権力を敵視し、大衆の人気を勝ち得る。一見、容易なことのように思えるが、それこそ大衆娯楽だという確固たる信念すら感じることができる。“日本の9割は中小企業で出来ている。町のネジ会社が潰れては飛行機は飛ばない。”この精神を池井戸氏は大事にしている。池井戸作品は我々庶民に近しい思想を正義と位置付ける。

正義を問う話である。トラックの脱輪事故にはじまる、中小企業への世間からのバッシング。しかし、次第に浮かび上がるリコール隠しの疑惑。巨大権力なら握り潰すに簡単な事実を明るみに出すことの社会の理不尽さと、困難さを描く。もちろん、長瀬智也演じる中小企業の社長の追究もだし、大手自動車メーカー内でも内部告発が上がる。



リコール隠しを扱う秘密裏に行われる会議の存在を探るディーン・フジオカ演じる大手の課長も、希望職の異動という表向きの名目で出世街道から外されたり、高橋一生演じる銀行マンも大手自動車メーカーの疑惑に気付き立場が危ぶまれる。
(しかし、この主役級が集った面子がエゲツない。まるでステーキと寿司と鰻重を一気に食うような贅沢感と言うか、濃さ(笑)日本の芸能界と映画界の本域度を感じた。
ただね、いくらTOKIOが出ているとはいえ、製作陣の名前の列にジュリーK藤島の名前を入れるのは何か違和感がある。なんて言ったら大手企業に潰されるってか?(笑))
どうも同年代なもんで「白線流し」以来「池袋ウエストゲートパーク」とか「ムコ殿」のような社会派ではないイメージが強かったので、池井戸作品には合わなそうだなと思っていた長瀬智也が40歳を迎えて、いい味出してたのが意外だったなあ。変に英雄ではなく、いろいろ背負ってる頼りない背中が表現できてた。

組織とは何か? 信念とは何か? 正義とは何か?
何にすがって生きるが正しいのか。生きづらい世の中にこそ問うべき本質テーマをここまで娯楽作に仕立て上げた監督と役者陣に拍手だ! 現代社会で絶対に見るべき邦画!
そして、原作と映画の世界観を音楽として構成させたサザンの楽曲のマッチ度合が見事だった。



(文・ROCKinNET.com編集部)
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