映画レビュー

自分の起源を知り家系を大事にする想いに感動する『リメンバー・ミー』

(C) 2018 Disney / Pixar. All Rights Reserved.


お盆の時期、幼い頃に両親の実家に行った際に、仏壇がいつも以上に大掛かりに装飾されていて、割り箸の足が付けられたナスとかキュウリとか(笑)お墓まで提灯を持って「ご先祖様を迎えに行く」なんて言われてたけど、子供の頃は何かよく分からなかった(今でも、その行事の意味合いなんて完全に理解できてるわけでもない)。死後の世界と現世を結びつかせる不思議な感覚。この映画で、メキシコにも10月31日~11月3日に「死者の日」という風習があると知る。お盆の「先祖を出迎える」と非常に似通った考え方だなと思った。死者の日は日本のお盆と比べると、もっとハロウィン的で、顔に骸骨メイクし、派手派手しいけど、こういう慣わしって、万国共通なのだろうか?

そこに普遍性があることが、この映画の成功の最大の要因なのかも知れない。誰しも家族がいて、自分の存在は●●家の壮大な物語の一部に過ぎない。よく、亡くなった方に「心の中で生き続ける」という表現をするけど、家系の一部だと、自分の存在を現世の人間が覚えていてくれるということが、あの世でも存在できるという発想のユニークさに興味が湧く。現世で忘れられたら、あの世でも消えてなくなってしまうというのだ。007でもそんなタイトルがあったが、人は二度死ぬ。命の終焉と、記憶の喪失による終焉。生きる者としての使命は、亡くなった先代を忘れてはならないこと。それは、自分の系譜、家族の尊さへの表現でもある。だから、お盆で提灯を持っていくことも大事だし、死者の日でお祭りすること、仏壇や祭壇に写真を飾ることが大事なわけだ。
※死者の国から現世に行くのに、空港の税関のような所で自分の写真が現世の祭壇に飾られているかがパスポートとなるからだ。




けど、この映画の結論って生命の終焉の美化にはない。どう生きるかだ。自分の死後、誰にどう思われるのか。祭壇に自分の顔が飾られるような人間として生きられるかの証を問う物語だ。本作は『トイストーリー3』のスタッフが制作したというが、あの作品では、大人になった所有者に不要とされた玩具達が玩具として、自分達の存在意義や必要性を表明するために奮闘する姿が描かれていた。この映画もそうだ。現世の誰かに必要とされてる証を求める物語。要は、誰かに愛されるための自分の生命、それが家族という形なのだと気付く。ピクサーらしいユニークな発想で、ここまで感じさせるのだから、やはりピクサーってのは只者ではない。

死者の国の造形の壮大さと、息をのむほど鮮やかな優美さには圧倒されること間違いないだろう。ピクサー史上最も見事な景観と評してもいいくらいだ。そして、楽曲の旋律の美しさにも唸る。アカデミー賞の舞台で拍手喝采だった『グレイテスト・ショーマン』を跳ね除けて、同作が楽曲賞を獲ったのも納得だ。
偉大なミュージシャンを“ひいひいおじいちゃん”に持つ、少年ミゲル。彼が死者の国に舞い込んだことで起こる、意外な展開と活劇を、ピクサー的高クオリティで描くから言うこと無しだ。

鑑賞後にタイトルである「リメンバー・ミー」の意味を改めて噛み締めると、涙無しにはいられない。どこをどう切り取っても、傑作である。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。


 

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