映画レビュー

前作に続き続編も成功★『パディントン2』は、チャップリンイズムを継承する傑作娯楽だ!

(C) 2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

笑って泣けて、本当に心が温まる映画とは、こういう作品を言うのだと思った。しかも、エンターテイメントとしても究極だ、これは世界的に大ヒットを記録した前作を素直に踏襲している。続編だからという変な片意地も張っておらず、無駄な派手さが無いのが成功の鍵だったと思う。相変わらず、冒頭から主人公パディントンのドタバタ・コメディが展開され、その姿に癒される。ドジだけど、懸命な姿に愛嬌を感じるばかりである。

何故、我々はこうも、この熊に惹かれるのか?

前作から、なんとなしに考えていたことだが、それを明確にしてくれる続編だった。パディントンが時計の歯車の隙間に挟まれるシーンがある。正しく『黄金狂時代』のチャップリンなのだ。そう考えれば、本作でも繰り広げられるパディントンのドタバタ(整髪店での失敗とか、窓ふきのバイトとか、刑務所内の洗濯・調理シーンとか)は、チャップリンの短編映画を見ているようで、隙の無い上質なコメディっぷりに拍手喝采の連続。また、刑務所内でのシーンの数々は『グランド・ブダペスト・ホテル』のような色彩豊かでポップな感じだし、隅々まで徹底して可愛い。

そして、何よりもヒュー・グラントだ。もはやラブコメの帝王である。その奇抜なコメディアン・センスには舌を巻く。昔は売れっ子で、今はドッグ・フードのCMしか露出が無い俳優なんて、どこかピッタリな部分もある役どころを見事に演じきった。エンドロールでは華麗な歌とダンスも披露。本編では悪役に徹していたが、そういうの関係なく、一流のエンターテイナーぶりを見せてくれる。こういう見せ場を作った制作陣も素晴らしい。

現代の英国は混沌としている。難民過多、高齢化、EU離脱、マンチェスターのテロ。英国に限ったことでは無いが、保守化が進む中で、閉塞的な空気感で覆われている。そういう、世相と真逆を行くのが、このパディントンなのである。街の人気者だったはずのパディントンだが、雑貨店の泥棒と間違われて、刑務所に入れられてしまう。「やはり熊だから」と風評被害が広がり、徹底してバッシングを受ける。事実無根でも止まないSNSの炎上かのように。そんな誤解を解くために、ブラウン家や囚人たちが一体となって解決に挑む様に心洗われるのだが(嫌な人がほとんど出て来ないのだ)。こうした、根底に「差別」「異種受容」がテーマにあるのが良い。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. KEYTALKの八木氏はナゼ愛されるのか?その無敵な愛嬌の謎と八木氏のドラムテク…
  2. 2017年 勝手に選ぶベスト洋楽 TOP10
  3. ワン・ダイレクションのソロ実績がビートルズに並ぶ!活動休止後の各メンバーの成績も…
  4. RADWIMPS「HINOMARU」が物議!ポップ・ソングの右傾化に不自然さを感…
  5. 『茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~』からサザンがエロスを歌う…

関連記事

  1. 映画レビュー

    『怪盗グルーのミニオン大脱走』子供が笑えばOK!それ以上でも、それ以下でもない!

    こういう映画は子供が楽しめれば全部OKだと思っている。だから、各映…

  2. 映画レビュー

    『アド・アストラ』映画的醍醐味も希望も描けないスッカスカな駄作

    くっそつまらない!大概の映画は表現の存在として認める性質だ…

  3. 映画レビュー

    『メアリと魔女の花』が駄目だった理由は完全に宮崎駿から解放されてなかったからだ

    アニメ映画というのは少なからず何か心に残るシーンと言うものがあろう…

  4. 映画レビュー

    『マレフィセント2』異種を認め合う多様性時代を甘受するディズニーの鉄板映画

    続編もマレフィセントは母性溢れる良い人もはや『眠れぬ森の美女』…

  5. 映画レビュー

    近年のディズニーにハズレ無し!『ズートピア』で描かれる現代米国の縮図

    『ラプンツェル』以降、傑作を生み続け、『アナ雪』で何度…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. ライブレポート

    【ライヴレポ】ワンオク初の東京ドーム公演で見た“世界基準のバンドの風格”に圧倒さ…
  2. 映画

    何故「バルス現象」は起きるのか?その理由は日本特有の国民性と風土にあった!
  3. ハリウッド

    世界各国で記録的ヒットの『ブラック・パンサー』は何故ここまでの現象になったかを勝…
  4. ライブレポート

    COUNTDOWN JAPAN 1718 2日目ライヴレポート
  5. 映画レビュー

    果たして労働は悪なのか?『ちょっと今から仕事やめてくる』に見る現代社会の新価値観…
PAGE TOP