映画レビュー

【映画鑑賞日記】マダム・フローレンス!夢見るふたり

madam(C) 2016 Pathe Productions Limited. All Rights Reserved

この映画を観て思い出したのは、スペインで教会のキリストの絵を描き直した80歳の女性の絵があまりに下手で話題を呼び、逆に人気が出てしまったって例のニュース。絵画然り、音楽や映画もそうですが、アートの世界は優劣を決められないジャンルです。ある人にとっては糞みたいなものかもしれないけど、それによって人生が救われるほど感動する人もいます。価値観は多様です。

主人公のメリル・ストリープは音痴の女性。
その旦那であるヒュー・グラントが周囲の人間を買収して、その事実を隠させ、妻本人は自分に歌の才能があると思わせる。夫婦愛の物語なんですが・・・少し違和感があります。
優しさだけが愛なのか?ってことです。果てや、彼女は己の実力を知ることなくコンサートを開き、嘲笑の対象として大恥をかきます。それが優しさなのか?愛なのか?
ましてや、旦那は若い女と浮気・・・偽善を周囲が演じても、当の本人は「裸の王様」でしかない。主人公が気の毒に見えました。知らぬが仏ってやつ?

しかし、その下手さが話題になり、レコードはヒットしたということです。
これは事実に基づいた話らしいのですが、その部分はエンディングで一瞬紹介されるだけ。惜しいなと感じたのは、この映画にはドラマがないんです。歌が下手な女性がチヤホヤされて、そのままお金にモノを言わせて音痴ながらカーネギーで歌ってしまう。それじゃ、ただの裕福な人間の豪遊でしかない。
けなされ、馬鹿にされ、悔しい思いをしても、どうにかカーネギーでコンサートを開き、レコードが爆発的なヒットとなるという、一種の成功物語でないとカタルシスが感じられない。そういう脚色はすべきかなと思いました。

EXILEの兄ちゃん達なんかはカラオケでは高得点が出るでしょう。けど、歌っていうのは、音符を正確に発声するもんじゃない。人に届けるもの。このあたりの兄ちゃん達共通に言えることは、誰が歌っても同じようにしか聞こえない。EXILEが歌おうが、三代目が歌おうが、なんなら週末の新宿辺りの合コンのカラオケBOXに行けば、同レベルのカッコつけた声色で歌ってる兄ちゃんは、五万といるでしょう。要は「味」がないってこと。
確固たる個性や独自性、大衆の心を掴んで離さない歌い倒すボーカル力。その人しか成しえない声質。それこそ、歌の神髄だと思ってます。
この映画の主人公は、あまりに下手ではあるものの、人に届ける力はあったのでしょう。スペインのキリストの壁画然り、物の良し悪しは時として、思わぬ方向に転ぶものですが、ウケるには相応の理由と惹きつける何かはあると思います。それが好奇の目でも構わない。無個性よりも。

そんな下手な歌手を演じた、メリルの、まぁ芸達者なこと!感心します!
ヒューも『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編に出ずに、久々に見ましたが、老けましたね・・・けど、流石は元祖ラブコメの帝王です。ウィットな演技をさせたら上手い!

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. マーベルが『ブラックパンサー』でヒーロー映画初のアカデミー作品賞を獲得するために…
  2. KEYTALKの八木氏はナゼ愛されるのか?その無敵な愛嬌の謎と八木氏のドラムテク…
  3. 『いぬやしき』興行失敗で垣間見える漫画原作映画の限界~世間はエグさに飽きている
  4. 映画『アントマン』では味方だった猛毒蟻“ヒアリ”について徹底解説!
  5. 第10回 独断で選ぶ素晴らしい邦楽たちTOP10 2018

関連記事

  1. 映画レビュー

    米国保守の象徴が自省を込めた『運び屋』はイーストウッドの贖罪映画である!

    御年88歳で監督主演、90歳を演じる超人イーストウッドイースト…

  2. 映画レビュー

    映画は権力の腐敗を許さない!『新聞記者』は風刺精神を捨てない映画の鑑だ!

    最近のネット界隈に疲れている。狂信的に現政党を支持するネトウヨ…

  3. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち

    ティム・バートンという映画監督をどういう作家性と位置付けるかにもよ…

  4. 映画レビュー

    近年のディズニーにハズレ無し!『ズートピア』で描かれる現代米国の縮図

    『ラプンツェル』以降、傑作を生み続け、『アナ雪』で何度…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. ニュース

    またもコンサート会場が狙われる「米国史上最悪の銃乱射事件」から音楽ライヴ運営の将…
  2. 邦楽

    安室奈美恵の引退への想い~安室という現象が現代の日本女性像を変えた~
  3. ニュース

    遂にNYタイムズ誌まで?ガキ使の黒塗りメイク批判は行き過ぎだと思う理由!
  4. ハリウッド

    【実は悪事を働いていない?】『美女と野獣』の悪役ガストンから読み解く、強さを求め…
  5. 邦楽

    RADWIMPS「HINOMARU」が物議!ポップ・ソングの右傾化に不自然さを感…
PAGE TOP