映画レビュー

【映画鑑賞日記】ハドソン川の奇跡

hadoson©2016 Warner Bros. All Rights Reserved.

トム・ハンクス主演でイーストウッド御大が飛行事故から人命を救った英雄機長を題材に映画を撮る<いかにも>な作品。要は、保守層の多いオスカー辺りが好き好んで仕方のない、隙の無い感動系ヒューマンドラマ。

具体的に、何を賞賛すべきか。それは、どうしても御大の年齢の話になってしまうのが実に野暮ったらしいと分かってはいるのだけれども、御年86歳で監督作を作り上げてる点もそうだが、その作品には必ず観ている者の<意見>や<正義感>や<価値観>を揺さぶり試すところにある。『ミリオンダラー・ベイベー』で世界に衝撃を与えた御大は、映画の中で明確な回答をせずに(傲慢に正義感を押し付けずに)、観客に結末の<良し悪しの意見>を求めた。

世間では英雄視されるトム・ハンクス演じる機長が、乗客の人命を危機に晒したのではないかと言う容疑がかけらる。彼の取った行動は結果論としては英雄と称するに相応しかったが、これが逆の結果であったら世紀の大犯罪者扱いになる。表裏一体であることを調査委員会は見逃さない。そういう現実も描くことで、彼が英雄なのか?傲慢なだけなのか?の正義の行く末を観客に委ねる。
映画は徹底して英雄として描くが、ただ賞賛するだけでないリアリズム。

そのために、機長は心労から飛行機がビルに突っ込む夢を見る描写がある。9.11を彷彿とさせる描写である。こういう描写が許される、米国の傷も癒えてきているのかなと勝手な解釈で見ていた・・・

機長は尋問会で川に着水しなくても済んだことがマニュアル実験で証明されたと主張する調査委員会に「そこに人的判断はあったか?」を問い正す。バーチャル画面の中で行われるマニュアル実験は人命を背負わずに、言われた通りの飛行操作しかしない。しかし、機長は、危機的状況に至った際の感情の揺れ、極限状態の判断に要する時間など、機械的でない<人として>の判断を問いた。
何でも理屈では語れない。最近は、「論破」なんて言葉が流行しているようだが、物事はもっと複雑だ。理屈で片づけられるほど単純なら苦労はない。
この機長が英雄と称され、映画としても成立したのは、こういう人的な部分があったからだと思う。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 実は失敗していたサザンの紅白!ユーミンとの奇跡の共演に助けられ拍手喝采!
  2. 世界で大ヒット中の映画『スパイダーマン:ホームカミング』の主人公トム・ホランドの…
  3. 第10回 独断で選ぶ素晴らしい邦楽たちTOP10 2018
  4. 【追悼】アメコミ界の巨匠スタン・リー逝去~映画カメオ出演を振り返る~
  5. 【速報レポ】My Hair is Badの初武道館公演を観る!椎木が提示した正し…

関連記事

  1. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】劇場版 動物戦隊ジュウオウジャーVSニンニンジャー 未来からのメッセージ from …

    「ジュウオウジャーVSニンニンジャー」製作委員会 ©石森プロ・テレビ朝…

  2. 映画レビュー

    『マレフィセント2』異種を認め合う多様性時代を甘受するディズニーの鉄板映画

    続編もマレフィセントは母性溢れる良い人もはや『眠れぬ森の美女』…

  3. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】帝一の國

    漫画原作というか邦画そのものに面白みを感じない自分が絶賛したい…

  4. 映画レビュー

    『ジェミニマン』役者若返り達成!リー監督による技術への飽くなき追求に驚愕する!

    役者の若返りが遂に達成された革命的映画だ!『ベンジャミン・バト…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. ライブレポート

    METROCK 2017 1日目完レポ
  2. ライブレポート

    ポール東京ドーム初日を観た!
  3. 邦楽

    松任谷由実「恋人がサンタクロース」がクリスマスは恋人と過ごす日という社会的呪縛を…
  4. 邦楽

    KEYTALKの八木氏はナゼ愛されるのか?その無敵な愛嬌の謎と八木氏のドラムテク…
  5. ライブレポート

    【速報レポ】My Hair is Badの初武道館公演を観る!椎木が提示した正し…
PAGE TOP