映画レビュー

『ハンターキラー 潜航せよ』もはや映画で米露が争う時代は過ぎた

(C) 2018 Hunter Killer Productions, Inc.

ロシアとアメリカの軍潜水艦が爆撃される事件が発生と聞けば「20年前の映画じゃあるまいし、今さら米露の対立映画かよ」なんて思っていると、後の展開に驚かせられる。戦争になり兼ねない大参事の主犯格は誰なのか、ミステリー性も手伝い、緊迫したストーリーテリングに引き込まれる。

魚雷が迫り来る恐怖や、音感知地雷の中を巨大な潜水艦がゆっくり移動するなど、海底で繰り広げられる緊迫したシーンの連続にドキドキしっぱなし。それを指揮するジェラルド・バトラーの良き上司風情がしっくり来て勇しかった。
それと並行して、真犯人であるロシアの国防相の策略を世界に知らしめ、戦争に発展させないために、監禁されたロシア大統領の救出に向かう米軍たちの活躍だけ見ても独立したアクション映画級で十分満足なほどだ。ペンタゴン本部内部でゲイリー・オールドマンとコモンによるポリティカル・ドラマも見応えあり、三者三様のドラマが進行するのだから、これで面白くない訳がない。


確かに、ハリウッド映画でありながら、ロシアの国防相のクーデターと犯人はあくまでロシア側にあるという設定だけを鑑みれば、アメリカの英雄ひとりじめ感とか、身勝手さも際立つものの(ロシア人の反応が知りたい)、常軌を逸した悪者を、良心を持ったロシア人とアメリカ軍が組んで挑む姿は両国のヒロイズムを平等に描くに何ら不足分もなく、勇敢でカッコ良い。
『コードネーム U.N.C.L.E.』でも米露のスパイがバディを組んで事件解決に挑む姿が描かれていたが、国際的な諸事情は別として考えれば、現代の映画としては、もはや冷戦意識を引きずる不毛さを発信する時代なのかもしれない。それだけでも美しい。

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それでも、表面上は米露でドンパチしてるに変わりはないシーンも多かったが、根本的なテーマは国籍を廃した人間同士の絆を描いており、冷戦以降対立している米露間の信頼を描いたことは革新的である。国粋主義が横行する現代の世界情勢に警鐘を鳴らしているかのようだ。

何よりも、この映画では、米軍は自発的な攻撃をしなかった。ここ結構、重要であるかも知れない。軍事力で物言わせる今までのハリウッド戦争映画とは違う。それよりも救出したロシア艦長の人徳に賭けた。この映画は軍事映画でも戦争映画でも無いのだ。このロシア艦長がバトラー同様に部下からの人望が厚かったことに表れているように、人望の映画だと感じた。優れた上司力の結果が勝利を導いたと思えば、世の上司たちは背筋を正さなければならないだろう(笑)
「そんな単純なことで軍事行動が左右されるわけない!」「ご都合主義だ!」と思われがちだろうが、軍事力や国名を挙げての映画なら、そのくらいのファンタジーで良いように思える。娯楽に徹する方が映画としては美談で済み、正解だろう。

(文・ROCKinNET.com編集部)
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