映画レビュー

【映画レビュー】『哀愁しんでれら』土屋太鳳が三度断ったのも頷ける猛毒映画



(C) 2021 『哀愁しんでれら』製作委員会

土屋太鳳が三度断ったのも頷ける猛毒映画。児童相談所に勤める土屋太鳳演じる主人公は家も貧しく苦労も耐えない決して幸せとは見えない生活を送る。度重なる不幸を経た時に、やっと出会えた王子様のような存在。離婚歴もあり子持ちではあるが、開業医でハンサムで優しい田中圭。連れ子である娘とも気が合い、誰もが羨むシンデレラのような生活に一変する。
多くの韓国ドラマのヒロインが幸せになるときに、金持ちの男性と結婚するという如何にも現金な展開を見せる、まさしく「幸せは愛より金で得られるもの」そんな感じ。

しかし、この猛毒映画は、そんなに優しくない。幸せを金持ちと結婚することで手に入れたように見せかけるも、主人公の友人の「少し踊って忘れ物の靴のサイズが合っただけで結婚してシンデレラって幸せになれるのか?」という言葉に象徴されるように、主人公の幸せのはずの結婚生活は思いもよらぬ展開を見せる。
結婚した途端、娘の言動が胡散臭くなるのだ。主人公も義理の娘に対し徐々に疑問を持ち始める。(キッズインスタグラマーだか何だか知らないけど、この娘が”程良い”ブスで性悪な表情をして良い味を出してるんだ・・・・・・)毎日作ってるはずの手作り弁当を食べていない疑惑が浮上したりと、とにかく娘の虚言癖が暴走しているように物語は展開する。果たして、娘の言い分が正しいのか、嘘なのかも曖昧にする部分も作るのが巧みだ。観てる側も混乱し、真実を追い求めたくなる。
王子様と思えた田中圭は学歴でしか人を見ずに周囲を軽蔑するモンスター・ペアレンツであるため、娘至上主義、土屋太鳳の言い分など通るはずも無い。



幸福物語から胸糞悪い世界に引きずり込む展開が見事。『パラサイト 半地下の家族』を彷彿とさせる、蟻地獄のように観る者すら泥沼に引きずり込む手法でドキドキが止まらない。人間不信ミステリーとしては極上の出来だ。ラストに関しては、虚構と言えども、あまりに自分にない倫理観の居心地の悪さなため減点するが、イヤミスのジャンルでは飛び抜けてよく出来てると言えよう。

結局は、幸せとは金では買えるわけでもない。結婚などの人生における大きな決断もそう易々としてはいけない。幸せとはすがればすがるだけ手に入れられなくなる。いや、幸せは手に入れるもので無く、現状に感じるものであると痛いほど分からされた気がする。

清純派が売りで一部の女性からは「あざとい」と言われがちな、土屋太鳳の怪演に演技派女優の凄みを感じる。やはり、彼女は只者ではない。ラストに関して、少し注文を付けるならば、映画として落とし前は付けて欲しかった。あれだけ狂気にぶっ飛んだのであれば、その先を観客に委ねては駄目だ。

(文・ROCKinNET.com編集部)
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