映画レビュー

『いなくなれ、群青』横浜流星のミステリアスな佇まいが醸し出す切なくも繊細なファンタジー映画




(C) 河野裕/新潮社 (C) 2019映画「いなくなれ、群青」製作委員会

ファンタジーとリアルの距離感が絶妙だった『いなくなれ、群青』

謎に包まれた島なのに平気な顔で暮らす違和感

不思議な感触の映画だった。謎の「階段島」に横浜流星演じる男子高校生が突如現れ、ここは捨てられた人が集う島と言われ映画は始まる。この島を出るには失ったモノを見つけなければならず、それらの事実に疑問さえ抱かなければ平穏に暮らせるという。その摂理に従うように階段島の住民は(ネット発信できないほど外界と遮断されているのに)疑念を抱かず人々がごく普通に明るく過ごしているミステリアスさも同居した不可思議な世界観。ファンタジーとリアルの絶妙な距離感が何とも言えない不思議さを醸し出していた。

群青だけにブルーな映像美に魅了される

けど、薄らと青色でモヤ掛かっている映像や、叙情的とは相反する無表情で物静かな佇まいの光景が広がるも美しい。北野映画さながらの青色の絶妙な使い方だった。ホラーさながらの設定なのに不気味さを一切感じない。むしろ、澄み渡った爽快感だけが心地良く映し出される。

世知辛い現実から見れば階段島は理想郷なのか?

テレビ付ければ近隣国との関係は混沌とし、増税迫る財布事情は苦しく、ネットを開けば罵詈雑言が飛び交う。現実世界だって、階段島のように生きられたら、どれだけ良いだろうと理想は果てしない。

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飯富まりえの存在が島の空気をかき乱す

平穏を認めないリアリティ至上主義

飯豊まりえ演じる女子高生はリアリティ至上主義で島からの脱出を試みようと、島中を巻き込んでアクティブに動くことで、階段島の平穏が表面的でしかなく、居心地の良さだけ先行し物事の真髄に踏み込もうとしない異様さが次第に明らかになっていく。ディカプリオ主演の『ビーチ』がそれを描いていたが、正にあの異常性に近い。

空気感の変化を役者の演技で魅せる妙

その行動に島全体の停滞していた島の空気感が変わっていくが、その過程を登場人物たちの涙や叫びや心情表現で表す描写が実にセンチメンタルで胸が締め付けられそうだった。
彼女は島の人物の過去にも容赦なく踏み入る。それで救いを見い出す。生きるには例えネガティブな感情でも存在し得て、起伏が不可欠だと訴えかける。人生の負の部分も優しく肯定し包み込むような視点が心地良い。

この映画は秀逸なミステリー作品である

自分がもし階段島に降り立ったとしたら彼女のように現実に帰ろうとすると思うので、視点は彼女そのもの。だから、彼女と一緒に階段島の謎解きをしているかのようでミステリー作品として非常に面白い。そして、横浜流星が失ったモノに気付いた時、この島の謎が一気に解かれる。静かな語り口ながら意表を突いた結末に切なさと同時に鳥肌が立つ。


次代の寵児「横浜流星」が魅せるクールな佇まい

空手世界王者にして熱血漢ではないギャップ

そして、何より横浜流星だった。端正なルックスは言わずもがなだが、少し吊り目な表情も謎めいた島人を演じるに、この上なくマッチしていた。より作品のミステリーを深める存在感。彼は冷静沈着な役を演じさせたら今の若手では群を抜いていると思う。トッキュウジャー時代から『チア男子』の時もチームを引っ張るというより優しく見守る立ち位置だったように熱血タイプの役を見たことが無い。

横浜流星だからこそ体現できた女性監督のセンチメンタリズム

空手で世界大会で優勝した根っからのスポーツ選手気質のはずだし、加えて完成披露記者会見を見させて頂いたが、インタビューで「中高の時はヤンチャしていた」と言っていたが、そんな二面性を要しながらも、無骨な日本男児ではないクールな佇まいを見せるところが、真の紳士なんだと思わずにはいられなかった。また、彼だからこそ柳明菜監督のような(控えめそうな)女性監督の繊細なタッチを体現できたと思っている。旬だから起用されたのではない、演技の面で横浜流星のキャスティングは正解だと思った。

(文・ROCKinNET.com編集部)
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