映画レビュー

久々の韓国映画の成功例『新感染 ファイナル・エクスプレス』の勝算は単純さにあり

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99年の『シュリ』を皮切りに、文化としての成熟度の早さ、高さが凄まじいものがあったが、正直なところ韓国映画は苦手だ。確かに娯楽作としても社会派としても優れた物もあるのは認める。けど、とことん暗くて陰湿で、韓国映画は一切観ない宣言をしてしばらく経つ。
最近は日本映画が韓国映画化していると危惧している。どうも、日本文化独自のワビサビを欠いたような、韓国映画っぽい、エグくて陰湿な映画が増えたように思える。実際にリメイクもしてることから、完全に邦画は韓国を後追いしているように感じるし、だからこそ観たくもない日本映画が増えたと思っている。

それから十年近くが経過し、この『新感染』ような世界的にも大々的にピックアップされる大作が出て来て、少し面白そうだと思いながら、久々に韓国の映画を観てみた・・・・・・圧倒された。手に汗握る緊張の二時間。映画を観て、こんなに緊迫したのは何年振りだろうか。

韓国映画でも、例えば『オールド・ボーイ』のワンカット横スクロールのバトルシーンだとか、『グエムル-漢江の怪物-』の日常に非日常的対象を織り込める巧さとか優れた映画は多くある。しかし、そういう技術的、シナリオ的な優れたものすらない、この『新感染』が何故にここまで面白いのかといえば、その“単純さ”に集約できると思った。

言ってみればゾンビ映画の教科書をそのまま映像にしたような、斬新さも無い映画なのだ。『28日後・・・』で確立された現代ゾンビの映画を東洋人でやったらこうなるって感じ。特徴を挙げるとすれば、舞台が列車の中という点。密室劇が恐怖を煽り立てる。前進か後退の二択しかない恐怖。この閉塞感こそ、『新感染』を成立させるのに重要なファクターとなる。また、列車だからこその疾走感が作品に、一種の“勢い”を与えている。正しくジェットコースター・ムーヴィーと呼ぶに相応しい。
加えて、あざといほどの枷や障害が登場人物たちを襲う。ゾンビが音に反応すると分かっていながら、そっと逃げようとする時に空き缶を踏んでしまうような、その分かり易さがいいのだ。要するに映画というのは、多少のアイディアさえあれば、無駄な色付けはいらない。単純明快こそ娯楽の基本と改めて感じた作品だった。

主演のコン・ユも、織田裕二の二番煎じのような顔しながら、ヒロイズム万歳的な雰囲気を出さずに、程よい一般人的なオーラを放っていたし(織田裕二よりは控えめな印象かな。世界陸上も大人しくやってくれそうな雰囲気だが。しかし、前々から思っていたが、この人はスタイルが良い)。
そして、この映画はゾンビってだけでなく、追い込まれた人間たちの深層心理描写にも長けている。「自分さえ助かれば、それで良い」と言わんばかりに、別車両から逃げてくる主人公たちを、感染を危惧して、安全な車両に入れない人間たち。ゾンビも怖いが、そんな人間の身勝手さや汚さも怖い。ゾンビ映画にメッセージ性は不要だと思うが、この映画は利他的な親切心を観る者に問いかける。しかし、日本は震災の時に、世界中から驚かれ感銘されたように、利他的な想いというのはあると思うので、少々くどさも感じるが、韓国人には必要なメッセージなのかな?

『アイアムアヒーロー』のように漫画原作で無駄にグロイ(らしい)映画しか作れなかった日本は娯楽創造という点で、この映画に負けを認めなければならないようだ。何も韓国文化に肩を持つわけでは無い。この映画がどうこうってだけのこと。ハリウッド映画至上主義者の観点から、ちょっと不満を言えば、やはり主要人物が犠牲になることはないと思ったのと、ラスト(起承転結の結の部分)があまりに不親切である。妊婦は無事に赤ん坊を産めたのか? 少女の今後はそうなったのか? このゾンビ騒動は根本から解決したのか? そういうものをサラッとでもいいから描かないのは映画制作としては雑さを感じずにはいられない。そこだけ惜しかったかな。

(文・RICKinNET.com編集部よっしー)
※無断転載は固く禁ずる

 

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