邦楽

安室奈美恵の引退への想い~安室という現象が現代の日本女性像を変えた~

出典:www.syncmusic.jp/wordpress/?p=17534


突然のことに言葉を失う。安室奈美恵が引退を発表した。
ここで彼女の経歴を振り返っても“言わずもがな”な事実ばかりで老若男女共通の知識である、まさしく彼女は国民的スターであった。だから、ここではリアルタイムで彼女を見てきた同性代な音楽ファンの視点で、安室奈美恵という現象は何だったのかを追っていきたい。

日本社会を動かした少女

思い起こせば、20年以上前に、自分が多感で流行歌を気にし始める中学生の時に「TRY ME~私を信じて~」を聴いて、当時日本で流行していたユーロビートの曲調が非常に少年心に分かり易く、早速、虜になる。初めて小遣いでCDを買ったのが、それだった。

95年の紅白初登場の時は、司会の上沼恵美子が「さあ、安室奈美恵ちゃんの登場ですよ」と言った時に、会場から女性の歓声が飛んだことに、隣の古館伊知郎が驚いたのを今でも覚えている。その頃の安室人気は、さほどで、流行に敏感な女子のみ認識していたのだった。

それから彼女の影響は、誰もが想像する以上の速度と範囲に及んだ。渋谷では女子高生たちが、ロングヘアーに“シャギー”を入れ、厚底ブーツを履き、日サロに通い肌を焼きまくっていた。アムラーが社会現象と化した。彼女の出身地である沖縄までもがピックアップされ、彼女が通っていたタレント養成スクール“沖縄アクターズスクール”からSPEEDをはじめとする若い女子アイドル・グループが軒並み売れる。それに比例し、芸能界を目指す女子が増え、芸能界全体も女性タレントの比重が大きくなっていた。当時、劇団に通っていた自分は「芸能界で男子の需要が果たしてあるのだろうか?」と不安になるほどの現象だった。たった一人の女性アイドルが、その風貌・ファッションや、生き様が憧れの的となり、社会的関心や業界を動かし、社会現象を生んだのは珍しいことだった。聖子ちゃんカットとはケタが違う。当時、田舎もんの中防の自分には、安室そのものが都会・流行の象徴だった。

現在のカリスマ的存在価値とアイドル時の大衆の反応差

当時の安室の扱いはアイドルそのものだった。現に今とは全然違う。今や同性の支持を絶対的なものにし、アムラー現象時代に生まれていないような若い世代にも支持を得ている彼女はカリスマそのものだ。しかし、アイドル当時、ファンを公言していた俺は下敷きさえも安室にしていたが、周囲の同級生からは「こんな猿女の何がいいのか分からない」と馬鹿にされていた。安室は、従来のミニスカ穿いたブリブリなアイドル(今で言う秋元康系のアルファベット三文字グループ群、時代は逆行している)とは明らかに違っていたからだ。まさに異質だった。しかし、安室現象は日本を席巻、今でも続いている。流行やアイドルを敢えて毛嫌いする当時の中防の同級生たちに、今の安室人気を問いただしたいくらいだ。

低迷期

そして1998年、自分が高校に進学していた頃に突然の結婚・妊娠報道。アイドルの寿命は四年と言われるが、安室の場合は結婚という選択で世の男子ファンを自ら離した。彼女はこの頃から自ら選択をしていた。誰の指図も、周囲の評判も関係ない。自分の決断を重要視する人だった。当時の週刊誌やテレビ番組は、とにかく“ポスト安室”探しに躍起になっていた。知念里奈が最有力とされていたが、実際に頭角を現したのは浜崎あゆみであった(その浜崎が今では森三中と変わらないプロポーションで新曲も売れずに歌以外でしか話題にならないのも痛々しさの極みであるが)。
そして、翌年の紅白復帰の涙は忘れない。日本芸能史に於ける印象深いシーンとして語り継がれるべき感動的な瞬間だった。
しかし、復帰後、絶大な人気を誇っていた安室に対し、徐々に世間は興味を失っていった。

奇跡の復活と彼女が支持される最大の理由「自分らしさの追求」

しかし、安室の真の凄さはここからだった。先でも言った通りに、彼女の全盛期を知らない10代20代の女性を中心に人気が拡大。彼女はストイックにダンスや楽曲向上(小室からの脱却と洋楽的R&Bサウンドの追究)など、セルフプロデュースで自分を高めていたのだ。安室を観たのは、五年前にドーム公演を行ったのが最後ではあるが、その姿は、幼き頃に知っていたアイドル・安室奈美恵ではなかった。その様は、例えるなら、ケイティ・ペリーやリアーナと肩を並べても見劣りしない、まさしく世界基準といって過言ではないクオリティだった。自分の方向性を信じた彼女の言動に大衆がついてきたのだ。信じられない復活である。全盛期(ミリオン連発時を指す)並みの動員を再び誇るなんて、通常のミュージシャンは出来ない。有り得ない。

過去の栄光を引きずらない現役感こそ唯一無二の由縁

PAST<FUTURE

彼女が流石だと思ったのは、小室以降の楽曲を収めたベストアルバム『BEST FICTION』を出した後に、そのジャケ写である自らの写真を破った写真が印象的な『PAST<FUTURE』を出したことだ。あのジャケ写には相当の衝撃を受けた。過去の栄光を自ら破り捨てるようなメッセージ性・・・・・・実際に地上波のテレビ番組で「安室奈美恵の好きな歌」のランキングで往年の小室プロデュース楽曲が並ぶ中、1位が2012年の「Love Story」だった。比較的新しい曲の人気がミリオンヒットなどの旧曲や代表曲を超えるというのは、サザンやミスチルなど何十年も第一線に君臨するミュージシャンに見られる現象であり、彼らでも至難の業である現象だ。それを具現化させた希代の女性シンガー。彼女を超える女性アーティストは、日本の芸能史古くとも唯一無二だと断言できる。

彼女の魅力は、その寡黙性にもあったと思う。ドーム公演でも一切MCをしない。アイドル時は地上波の音楽番組で赤裸々に私生活や自分の考えを発信していたが、それを全くしなくなった。結婚、出産、子育てなど、誰もが気になる情報を明かさないことが、一種の神妙性を生んだ。負けず嫌いな性格がゆえに“劣化”という表現を極端に嫌がったことが表しているように、そのスタイルの良さをキープしていることも同性の憧れを煽った。
東京五輪の開会式でパフォーマンスをするに相応しいアーティストのアンケートでは、サザンやB’zや嵐を抑えて堂々の一位だった。もちろん、大衆歌手の中でも最も世界基準に近いように思える。その姿が見れないのは残念だ。

個人的には芸能人は「引退」するものでないと思っている。需要がある限り、望んでいるファンがいる限り、一生涯、自ら身を引くなどもってのほかだと。しかし、彼女は《選んだこの道を歩んでいくから》と歌う。恋愛を大々的に歌った「Love story」の一説ではあるが、彼女の道を決めるのは彼女自身でしかない。彼女以外であってはならない。それこそ彼女の“美学”であり、魅力の源であった。そう考えると、その潔さには屈服するしかない。四半世紀を自分なりの方法で輝き続け、日本の女性像に新しい形を提案し続けた安室奈美恵に心からCelebrationを贈りたい。

image source:www.syncmusic.jp/wordpress/?p=17534

(文・川鍋良章)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

 

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