デルタ株拡大の中でのフジロック開催の是非
五輪開催直前から感染状況は変わった
何が正解で、何が不正解なのかが分からない時代だ。東京五輪が開催され、国民の気が緩んだ結果なのか、デルタ株の影響なのか、感染拡大が止まらない。「五輪を開催するんだから」と各地でスポーツ観戦の緩和や、各種イベントも開催されている。ROCK IN JAPAN FES.や、隅田川花火大会が中止になったが、フジロックは開催される模様だ。正直、困った。人数制限を行うとはいえ、数万人が集結する大型フェスを開催するのは最悪のタイミングだからだ。悩みに悩んだ。ひと思いに中止にしてくれた方がどれほど気が楽か。この規模のイベントを止めることが如何に経済的リスクがあり、難しいことかは重々承知なのだが。
私も毎年フジロックで夏を開幕させる、生粋のフジロッカーである。交通手段や、天候対策も慣れたものだ。もちろん、今年もチケットも準備万端、海外の大物アーティスト不在ではあるが、あの空気感を味わいたくて行く気満々でいた。しかし、無念ではあるが、今年の参加は見送ろうと決意した。
生粋のフジロッカーである僕が断念した理由
その理由が、フジロック側の対策にある。運営側が最大限の努力をしてるのは認めるが、ザル対策なのだ。開催スタッフはワクチン接種しており、出演者にはPCR検査を徹底させているようだ。私の大学時代の友人も出演する。「ROOKIE A GO-GO」に出演する某バンドのドラムを担当している。インスタのストーリーで、その報告をしているのを見た。また、新潟県はフジロック開催の実現を自治体と共に協力しており、湯沢町と周辺の市町村に優先してワクチン接種も行うなどしている。
しかし、これらは受け手の問題。
観客に対しては、抗原検査キットを無料配布するとのこと。日本のイベントとしては、前代未聞の対策であり、ここまですることの本気度に感心した。しかし、検査キット配布の連絡メールを読んでいるとあくまで「お願いベース」でしかないことに気付く。仮に、検査して「陽性」だったら参加は控えてくださいねだけ。この場合はチケット代は返金される。
検査キットは送るが「陰性証明」は不要の矛盾
無料配布された抗原検査キット(※希望者のみ)
しかし、陽性でも自分の体調に支障がない「無症状」なら構わず行くと思う・・・・・・何よりも腑に落ちなかったのが、そこまでしているにも関わらず、陰性証明を出さなくていいのだ。
ここで私は一気に冷めた。
要は、検査で陽性と判明した者が仮に来場しようが、管理できない状況なのだ。確かに、日本では基本的人権が守られ、何かを強制するには、相応の理由や法的根拠が必要だろう、しかし、運営側が民間企業独自のルールとして設定することは出来なかったのか? フジロックは自由を売りにしてきた。観客の道徳心に絶対的な信頼を置いて成立してきた。皆がみんな、モラリストではない。送付された検査すらやるかも分からない。かく言う、私はワクチン二回目接種を開催前済ませる予定だが、それでも感染は完全に予防できない。フジロック行って余計なウイルスを持ち帰るわけにもいかない。
特に危険と思うのが、駅からのバス内と、トイレである。越後湯沢駅から、もしくは各駐車場から会場までは40分のバス移動である。そこでの密は回避不可能だ。また、簡易トイレの数も少なく、多くの人間が利用し、衛生的にも感染予防の立場からすると問題が無いとは言えない。これまでも洗面所、浴槽、トイレなどで、エアロゾル感染の危険性は発信されてきたからだ。ここでの感染対策が出来ていない時点で、今の現状に十分な対策が出来てるとは言い難い。
1日10万人が密集、海外のフェス事情は?
ローリング・ストーンズやフー・ファイターズ、リゾなど錚々たる面子が揃った「ニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバル」がデルタ株による感染拡大で開催中止になった。毎年50万人が訪れる大規模イベントであるから無理もない、開催されるルイジアナ州は38%で接種率が全米で下から5番目、それに比例して新規感染者も上位5番目の多さであるのも関係してよう。
テネシー州で開催される「ボナルー・フェス」は入場条件を厳しくすると発表している。ワクチン接種を8月19日までに行うか、ワクチン接種をせずにコロナ陰性の検査結果を提出される場合は、開催までの72時間以内で検査をし陰性証明を出さなければならない。7月下旬にシカゴで開催された「ロラパルーザ」は1日10万人が参加し、合計4日間開催。会場の様子は「本当にコロナ禍か??」と疑うほどに人でギュウギュウ状態。計38万5,000人が参加。参加条件は先のボナルー・フェス同様にワクチン接種が必要だったとのこと。その2週間後の調査では、参加者のうち203人の陽性者が出たということで、二次感染は起きなかったと結論。(参照:rockin’on 中村明美の「ニューヨーク通信」 より)
ただ、これは逆説に唱えれば、90%以上のワクチン接種のフェス会場でも陽性者が200人は出たということであり、ワクチンが全く行き届いていない今の日本だと陽性になる確率は当然あがるし、大惨事になりかねないため、検証材料や比較対象にならない。
このように、開催するには十分なワクチン接種率と、参加する人間のワクチン接種証明、もしくは規定時間内の検査による陰性証明が必要に思える。パンデミックでのフェス開催とは、そういうことなのだ。それ前提で開催されても、それでも陽性者は多少なりとも出るそうだ。ワクチン接種速度が落ち、全体の接種率も低い水準のまま、五輪開催による国民感情が逆撫でされたことで感染が拡大している中、陰性証明も出さない、無法状態のイベント開催は、果たして正しいのか? 音楽業界が衰退しないようにとか、国の失策でイベント制作会社が割を食うのは違うなどはパンデミックにおいては詭弁に過ぎない。そんなモヤモヤした気分で参加するフジロックに魅力を感じない。来年こそ、開放的に僕の知ってるフジロックに参加できることを祈ってやまない。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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