映画レビュー

誰もビートルズを知らない世界で抜群のセンスが光る傑作『イエスタデイ』

© Universal Pictures


プロのミュージシャンに憧れ目指した人なら誰しも思ったことがある発想だ。自分も大学時代にバンド組んでた時は思ったもんだ、どれほど桑田佳祐がいなかったら、桜井和寿がいなかったらと思ったことか。そんな安直な妄想を映画化しちゃったら、こんな素敵な映画になりましたって例。

世界中の誰もが知ってるビートルズを自分以外の誰もが知らなかったら・・・・・・
売れないミュージシャンの主人公が「Yesterday」を歌った時に周囲の友人が言葉を失うまでは想定内だったが、Googleでビートルズと調べると「甲虫」と出てきたり、オアシスも存在しなかったり、けど、チャイルディッシュ・ガンビーノは健在と、ウィットに富んだ冗談にセンスを感じる。
ついでに、劇中では、コカコーラも煙草もハリーポッターも存在しないことになってるのは、行き過ぎた表現だと思ったが、それだけ世俗的なものや、大衆文化形成にビートルズの影響が大きかったことを表現するに十分過ぎるユーモアではある。

その他は、王道的なラブ・ストーリーに落ち着くのだが、それこそビートルズが世界に発信し続けてきたメッセージ。終盤では、まさかのアノ人(職業が画家というのも面白い)まで登場するのだから降参である。その人は「愛する者に愛を伝え、偽りなく生きていく」隣にオノヨーコは当然いなかったが、「All You Need is Love」だ。基本過ぎて、逆にその愚直なメッセージに感動する。

この映画、実はエド・シーランの存在がかなり大きい。彼は言わずもがな世界で最も売れてるシンガーソングライターだ。通常、映画におけるミュージシャンの位置は付属にしかならないものだが、エドがいなかったら、ドリフの「もしもシリーズ」宜しく、そんな馬鹿な!な、ファンタジー小作に過ぎなかっただろう。

[PR]


現代にビートルズが歴代の名盤を出したら、どうなるか? 例えば、『ホワイト・アルバム』は白すぎる、『アビーロード』は単なる道だ、『サージェントペッパー』は意味不明すぎるなど、今の時代性で名作を湾曲させてしまうのが抱腹絶倒。挙げ句の果てには、「Hey,Jude」は「Hey,Dude(調子はどう?)」に変えて相棒の歌にしようは最高に笑えた。滑稽で面白いし、これってmetoo以降のTimesUpの風潮で、人種や性別を強く意識しすぎる現代への究極の皮肉にも思える。もちろん、差別擁護はしないが、アーティストの意見よりも大衆迎合しか頭にないギョーカイには強烈なパンチだろう。

また、何故か主人公は「Eleanor Rigby」が歌えないとか、主人公以外にビートルズを覚えている男性と女性の存在が出てきたりと、ミステリアスな展開がスパイスとなり、最後まで目が離せない。映画自体は、安易な発想だけど、素敵すぎるセンスで、こうも映画って耽美で情緒性を手に入れるんだなと感心した。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

[PR]

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. ロック・イン・ジャパン2017 2日目ライヴレポート
  2. 「時代遅れのRock’nRoll Band」を聴く
  3. 遂にNYタイムズ誌まで?ガキ使の黒塗りメイク批判は行き過ぎだと思う理由!
  4. ピーター死亡?アベンジャーズと違う?話題の映画『スパイダーマン:スパイダーバース…
  5. KEYTALKの八木氏はナゼ愛されるのか?その無敵な愛嬌の謎と八木氏のドラムテク…

関連記事

  1. 映画レビュー

    アメコミ映画には無い肉体を駆使するアクションに痺れる『ジョン・ウィック:チャプター2』

    前作は愛犬をチンピラに無残にも撃たれてしまったことから始まる大復讐…

  2. 映画レビュー

    余計な台詞すら削ぎ落とし、戦争を臨場体験させる『ダンケルク』こそ真の戦争映画だ!

    21世紀の娯楽作の王者ノーラン監督が戦争映画を撮るとこうも凄いとい…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. ニュース

    アリアナ・グランデのライヴ会場で起こった爆発テロについて
  2. 映画レビュー

    想定外のラストに衝撃!『アベンジャーズ/インフィニティー・ウォー』で初めてアメコ…
  3. 映画レビュー

    『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の功績は神話をオリジナリティをもって進展させ…
  4. 映画レビュー

    『娼年』の実写化で性に真剣に向き合った監督と、素っ裸で腰振りまくった松坂桃李に敬…
  5. 邦楽

    KEYTALKの八木氏はナゼ愛されるのか?その無敵な愛嬌の謎と八木氏のドラムテク…
PAGE TOP