映画レビュー

『スプリット』多重人格を演じきったマカボイの怪演以上に驚くラストに注目!

© 2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.


M・ナイト・シャマランという映像作家は不幸な作家である。20代にして「その手があったか!」と、世界中の映画ファンを驚愕させた『シックス・センス』(99)で一躍有名になり、“オチありき”の監督になってしまったがゆえに、映画の語り口や内容はさて置き、衝撃度のみで評価されてしまうのだから。

もちろん、ネタバレ無しで話を進めるとするが、今回はオチ云々は期待せずに、それまでのミステリーを楽しむような映画だと思った。出来れば、1955年オハイオ州で強姦強盗が起こった「ビリー・ミリガン事件」というのを頭の中に入れておくといいだろう。自分もこういう事件があったことを初めて知った。

多重人格というのが当事件で注目されるわけになるのだが、これまでホラー映画なんかで時折扱われる人物設定だ。代表的な例はやはり『サイコ』のノーマン・ベイツということになろうが(ちょい前で言えば、指輪物語のゴラムなんかもそうか?)、これらを見ていると多重人格というのは、まるで一人の人間が別人格をいくつも持って、それが分裂したイメージであったが、この映画によると、どうもそうじゃないらしい。同一人物内に複数形成された人格を、コントロールする人格がいて、脳内のスポット(この映画では「照明」と呼称される)に立つ人格が意識を持つ、すなはち人格として外部に表れてくるというのだ。その個人が持つ多人格のコントロールが効かない障害と捉えるのが今の解釈らしい。
(別に俺は精神科医でもないので、それを知ったところで飯の糧にもならんのだが・・・・・・笑)

この映画の犯人が持つ人格なんかは、潔癖症の男性、エレガントな女性、9歳児、ゲイの衣装デザイナー(23人格とは言うが主にこの4人しか出て来ない)が、誰が多人格たちを統率しているのか、“怪物”から全員を守っているのかなどと、語られていくのだ。そんな知識もないから、当然のことながら、異様なキャラを好奇心を煽って見せてくる。やはりシャマラン監督はミステリーの天才である。もちろん、その様は不気味としか言いようのない異常性を醸し出してるが、それらをマカボイが圧倒的な演技で見せてくれる。
通常なら特殊メイクやCGなどで表現すれば容易なことなのだが、見事に表情ひとつで人格の差を体現させた。そこに、様々な性別世代の喋り方が加わり、一人5役6役を見事にこなした。この映画は彼の演技なしには成立しない。一時はイケメン枠にいたはずの俳優の怪演が見所だ!

で、その中心人格が言うところ“怪物”っていうのが何なのか? これが謎を呼んでいく・・・・・・オチのためなら『サイン』で、お茶の間に宇宙人を平気で登場させてしまうシャマラン監督らしい、個人的には「なんじゃそりゃ!」的な発想だった、「マーベルかよ!?」なんて思ったりもした。あまり言うとネタバレになるので、このへんで。

[PR]


随所で回顧シーンがあって、実は両親を亡くした主人公の女子高生が叔父から性的虐待を受けてきたという絶望的な人生を垣間見ることになり、結末に解放されるも保護者である叔父が迎えに来たと警官に言われることのモヤッと感たらない。24人格者と同列に、この健常者であろうはずの叔父の異常性も気味悪い。続編でライフルで撃たれてしまえばいいと思うが(笑)

そう、これは続編があるという。

この映画の事件がニュースで流れているのを、とあるファーストフード店のカウンターの女性が「数年前にも似た感じの車いすの人が逮捕されたわよね・・・なんて言ったっけ?」と言った後に、なんと、ブルース・ウィルスが登場し「ミスターガラスだ」と言って映画は終わる。このブルースは『アンブレイカブル』の主人公。要はクロス・オーバーがされているのだ。

『アンブレイカブル』は主人公がサイコメトリー的な能力が自分にあると知ることで慌てふためくものだった。その劇中後半に、主人公は母と幼い息子の親子と道ですれ違う。その際にダンは自身の特殊能力で、この幼い男児が母から虐待を受けている・・・・・・というシーンを見る。そう、その男児とは、まさしく、この犯人なのだ。
自分の作品に伏線を張り、20年近く経って、別作品に関連付けるという緻密さには脱帽だ。シャマラン監督の曲者っぷりが、いかんなく発揮されている。シャマラン版アベンジャーズでもやる気か?(笑) それとも、続編は、特殊能力を持ったブルース・ウィルスと、怪物人格のバトル映画なのか? 面白そうである。2019年が待ち遠しい。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

[PR]

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 【ライヴレポ】ワンオク初の東京ドーム公演で見た“世界基準のバンドの風格”に圧倒さ…
  2. サザン40周年ライヴをLVで観る!~親近感こそサザン最大の魅力だと再確認する~
  3. アナタが行くヤツ、それ本当にフェス?フジロックが世界の最重要フェス3位に選出!
  4. 【速報レポ】My Hair is Badの初武道館公演を観る!椎木が提示した正し…
  5. テレ朝スーパー戦隊の放送時間変更の暴挙は吉と出るか?

関連記事

  1. ニュース

    【映画鑑賞日記】帰ってきたヒトラー

    (C) 2015 MYTHOS FILMPRODUKTION GMBH…

  2. 映画レビュー

    『エイリアン:コヴェナント』種の誕生と起源に迫るスコット監督の鬼才に慄く

    本来のSFホラー回帰した、スコット監督の気迫が感じられる力作だ…

  3. 映画レビュー

    『アベンジャーズ/エンドゲーム』 映画史に残る大傑作にして娯楽の頂点だ!

    ※注意※この記事は『アベンジャーズ/エンドゲーム』の内容に触れ…

  4. 映画レビュー

    ジョディ・フォスター史上最高傑作だった『マネーモンスター』

    文句なしで今年のトップに入る娯楽作だと太鼓判を押し…

  5. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】マグニフィセント・セブン

    原作があまりに名作だとハードル高くて困るよね?笑『七人の侍…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. ニュース

    エルレ細美が「待った!」転売野放し・・・チケットだけじゃないライヴ物販問題を考え…
  2. ハリウッド

    SW史上最大の被害者?ダース・モールその悲劇の人生を徹底解析!
  3. ハリウッド

    『マイティー・ソー バトルロイヤル』を楽しむための豆知識をちょこっとだけ紹介!
  4. 映画レビュー

    勝手に選ぶ今年良かった映画TOP10 2017大発表!
  5. 邦楽

    KEYTALKの八木氏はナゼ愛されるのか?その無敵な愛嬌の謎と八木氏のドラムテク…
PAGE TOP