映画レビュー

駄作『ダークタワー』で感じる、指輪物語やSWのように一大叙事詩を映画化するには相応の覚悟が必要って事実・・・

© 2017 SONY PICTURES ENTERTAINMENT (JAPAN) INC. ALL RIGHTS RESERVED.


ここまで原作ありきの映画が滑っている作品を観たのも久々だった。原作者は言わずと知れたスティーヴン・キング御大である。怒っていないのだろうか。むしろ、彼がライフ・ワークとしているほどの、全部で七巻にも及ぶ超長編作品だという。その世界観の構築や、登場人物のバックグラウンドなど、こまごました物の概要だけでも描くのに“指輪物語”並みの上映時間と、制作側の労力を要するものであるのだ。

だから、薄い! 薄過ぎた!!!
退屈するってほどの駄作でもなかったが(とフォローしておくことにしよう)、全てに根拠が欠如している。
何故、主人公の銃男は孤高に戦うのか? 
何故、マシュー・マコノヒーはタワーの存在を憎み、世界を滅ぼそうとしているのか? 
NYの現代世界に住む少年は、何故、異次元世界と繋がってるのか? 
そもそも、タワーが存在しなければならない理由は調和を保つなんて浅はかなことだけでいいのか? 
これらは、追求すればするほどキリも無く、まどろっこしくなるから映画でも極力省いて欲しいところではあるが、原作にはしっかりと書かれており、それがあるからこその叙事詩なわけで、こういう一面的な部分のみを、しゃぶしゃぶしたような映画にまとめてしまうのは乱暴としか言いようがない。

それこそ、主人公のバックグラウンドに崇高な過去があったにも関わらず没落したからこその、あの雰囲気であることなど触れる由もなく、ただ単に、マシューに敵意を持ったおじさんという印象しかない。肝心の戦いの理由を知るのに、5000ページもの読書をしなければならないとなれば尚更で、そんな暇人いるのか? 不毛な時間だと俺は思ってしまうわけだが、そういう描写を経てこそ、重厚な一大サーガが成立するのを台無しにしてしまった罪は大きい。

だからこそ、この作品に手を出す者の責任として、『ロード・オブ・ザ・リング』のような賭けをしなければならないのだ。出ない限りは、手を出すべきではない。指輪だって相当の賭けだったという。ファンタジーは絶対に当たらないとされていたが、その定石を見事にひっくり返したわけだが、それも、ひとつの作品を三時間も割いて丁寧に作り込んだ結果である。要は、この映画の最大の失敗は、その賭けができなかったことにあろう。失敗を恐れたからだ。なんなら「ゲーム・オブ・スローンズ」の制作陣に頼んで、1シーズン24話のドラマ形式でやったほうが、収益という面では現実的だったのではないか?

マシューにもがっかりだ。この映画に出たメリットがまるっきり無い。むしろ真逆。オスカー主演男優賞獲得後の彼の演技として、何も真新しい物も無いし、劣化しているようにさえ思える。安っぽい演技をしていた。その分、主人公のイドリス・エルバのいぶし銀の佇まいが際立っていたように思えたが。
しかし、イドリス・エルバのような黒人俳優が正義で、マシューのような白人のスター俳優が悪役というのも珍しいなと思った点においては、存在意義くらいはあるのかなと思わないとやってけない。

ちなみに、現実世界から中間世界へコネクトする古屋敷は、昨年2017年に大ヒットした『IT』でも使われていた建物だったことに気付かれただろうか。その後に、中間世界で古びて破壊された遊園地の看板に“ペニー・ワイズ”と書かれていたことにも驚いた。同じ原作者と言えど、関連性はない作品同士なだけに、ちょっとした監督の遊び心なのかなと思うことにする。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。



 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 今年2018年のサマソニがガラガラの異常事態!~その原因を探ってみた
  2. 『君の名は。』遂に北米公開で絶賛の嵐!
  3. アリアナ慈善LIVE「One Love Manchester」を観て感じたこと
  4. 年収50億のジョニー・デップが破産寸前な理由とは!~お金について考える
  5. 遂にNYタイムズ誌まで?ガキ使の黒塗りメイク批判は行き過ぎだと思う理由!

関連記事

  1. 映画レビュー

    米国保守の象徴が自省を込めた『運び屋』はイーストウッドの贖罪映画である!

    御年88歳で監督主演、90歳を演じる超人イーストウッドイースト…

  2. 映画レビュー

    『検察側の罪人』ようやく見れた英雄以外の汚れたキムタク!

    この映画の最たる存在意義は、ジャニーズによる本格的な社会派であると…

  3. 映画レビュー

    【映画レビュー】これぞ映画!『トップガン マーヴェリック』大傑作続編!

    これぞ、映画!これぞ、娯楽!懐古主義に走るでもなく…

  4. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】ナイスガイズ!

    今年度の賞レースを独占している『ラ・ラ・ランド』で主演を務めた…

  5. 映画レビュー

    シリーズのある種の頂点に達した『クリード 炎の宿敵』に胸が熱くなる!

    ロッキーが何故アカデミー賞に選ばれて映画史に燦然と輝く名作になった…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. ライブレポート

    ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017 3日目ライヴレポート
  2. ハリウッド

    2018年も大活躍間違いなし“次世代イケメン俳優”を青田刈り!
  3. ハリウッド

    【実は悪事を働いていない?】『美女と野獣』の悪役ガストンから読み解く、強さを求め…
  4. テレビ・芸能人

    テレ朝スーパー戦隊の放送時間変更の暴挙は吉と出るか?
  5. ニュース

    【日米LGBT理解度格差】LADY GAGAが「ミス・ゲイ・アメリカ」選出!一方…
PAGE TOP