映画レビュー

駄作『ダークタワー』で感じる、指輪物語やSWのように一大叙事詩を映画化するには相応の覚悟が必要って事実・・・

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ここまで原作ありきの映画が滑っている作品を観たのも久々だった。原作者は言わずと知れたスティーヴン・キング御大である。怒っていないのだろうか。むしろ、彼がライフ・ワークとしているほどの、全部で七巻にも及ぶ超長編作品だという。その世界観の構築や、登場人物のバックグラウンドなど、こまごました物の概要だけでも描くのに“指輪物語”並みの上映時間と、制作側の労力を要するものであるのだ。

だから、薄い! 薄過ぎた!!!
退屈するってほどの駄作でもなかったが(とフォローしておくことにしよう)、全てに根拠が欠如している。
何故、主人公の銃男は孤高に戦うのか? 
何故、マシュー・マコノヒーはタワーの存在を憎み、世界を滅ぼそうとしているのか? 
NYの現代世界に住む少年は、何故、異次元世界と繋がってるのか? 
そもそも、タワーが存在しなければならない理由は調和を保つなんて浅はかなことだけでいいのか? 
これらは、追求すればするほどキリも無く、まどろっこしくなるから映画でも極力省いて欲しいところではあるが、原作にはしっかりと書かれており、それがあるからこその叙事詩なわけで、こういう一面的な部分のみを、しゃぶしゃぶしたような映画にまとめてしまうのは乱暴としか言いようがない。

それこそ、主人公のバックグラウンドに崇高な過去があったにも関わらず没落したからこその、あの雰囲気であることなど触れる由もなく、ただ単に、マシューに敵意を持ったおじさんという印象しかない。肝心の戦いの理由を知るのに、5000ページもの読書をしなければならないとなれば尚更で、そんな暇人いるのか? 不毛な時間だと俺は思ってしまうわけだが、そういう描写を経てこそ、重厚な一大サーガが成立するのを台無しにしてしまった罪は大きい。

だからこそ、この作品に手を出す者の責任として、『ロード・オブ・ザ・リング』のような賭けをしなければならないのだ。出ない限りは、手を出すべきではない。指輪だって相当の賭けだったという。ファンタジーは絶対に当たらないとされていたが、その定石を見事にひっくり返したわけだが、それも、ひとつの作品を三時間も割いて丁寧に作り込んだ結果である。要は、この映画の最大の失敗は、その賭けができなかったことにあろう。失敗を恐れたからだ。なんなら「ゲーム・オブ・スローンズ」の制作陣に頼んで、1シーズン24話のドラマ形式でやったほうが、収益という面では現実的だったのではないか?

マシューにもがっかりだ。この映画に出たメリットがまるっきり無い。むしろ真逆。オスカー主演男優賞獲得後の彼の演技として、何も真新しい物も無いし、劣化しているようにさえ思える。安っぽい演技をしていた。その分、主人公のイドリス・エルバのいぶし銀の佇まいが際立っていたように思えたが。
しかし、イドリス・エルバのような黒人俳優が正義で、マシューのような白人のスター俳優が悪役というのも珍しいなと思った点においては、存在意義くらいはあるのかなと思わないとやってけない。

ちなみに、現実世界から中間世界へコネクトする古屋敷は、昨年2017年に大ヒットした『IT』でも使われていた建物だったことに気付かれただろうか。その後に、中間世界で古びて破壊された遊園地の看板に“ペニー・ワイズ”と書かれていたことにも驚いた。同じ原作者と言えど、関連性はない作品同士なだけに、ちょっとした監督の遊び心なのかなと思うことにする。

(文・ROCKinNET.com編集部)
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