映画レビュー

【映画レビュー】『リチャード・ジュエル』イーストウッドがフェイク情報に踊らされる現代に強烈なパンチを浴びせる!

(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

情報過多な時代、信憑性の薄い情報も、真相を確かめずとも伝達され拡散される現代。善悪をマスメディアが決めてしまう真実の脆さ。そんなフェイク情報に踊らされる現代にイーストウッド御大から強烈な皮肉が籠もったパンチを食らわせられるのが、監督作として通算40作品目となる『リチャード・ジュエル』だ。


1996年7月27日、アトランタ五輪で湧くアメリカで、主人公である警備員のリチャードが記念公園で爆発物を発見。悲惨な爆発事件が起こるが、マスコミは第一発見者であるリチャードを英雄として持ち上げる。しかし、地元紙は「リチャードが爆弾を仕掛けた」と報じたことをきっかけに、リチャードは容疑者として徹底的にメディリンチを受けることになる・・・・・・

この映画で問われるのは大衆と情報の関係性だ。
劇中で地元紙の尻軽女記者は「中年のデブで母親と二人暮らし」だという容姿や事件と無関係な家庭環境だけで、「軍や警官に憧れる下層白人」だと、無実のリチャードを容疑者と疑うFBIの意見を信じ込むなど、人は見た目が100%の差別的思い込みで記事を書いた。
それどころかFBIの推定有罪という常軌を逸した捜査が恐ろしい。汚職警官はイーストウッドが2008年に監督した『チェンジリング』でも触れたテーマであるが、劇中でサム・ロックウェルが「権力を持った人はモンスターになる」と言う台詞のように、正常に機能しない権力の批判を描き続けるのは、御大の内部にあるダーティ・ハリー時代から変わらぬヒロイズムが枯れていないことの証明でもあると感じた。近年は、凡作が続いていた印象のイーストウッド監督作だが、久々にイーストウッドらしい正義を感じる作品に痺れるばかりだった。



ただ、なんせ主人公がドジだったりする。弁護士に黙れと言われても、余計なことをペラペラ喋ったり、「記念公演に爆弾を置いた」と録音されるなど、何かと隙がある。自分の置かれた立場を理解してるのか?と苛立ちを隠せずにいたが、追い込まれた人間は、こうも脆いのかも知れない。その分、サム・ロックウェル演じる弁護士の存在の安堵感が際立っていた。

ネットの中傷やフェイク情報の配信に対する法整備はまだ未熟である。だからこそ、イーストウッドが今回指摘した各個人が、まずは真相を探ろうとする姿勢こそ重要なのかも知れない。ネット、マスコミが言うことが正しいとは限らない。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。



◆関連記事◆




 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 半漁人の勝利!90回目のオスカー発表!
  2. 【ライヴレポ】ワンオク初の東京ドーム公演で見た“世界基準のバンドの風格”に圧倒さ…
  3. サンボマスター vs My Hair is Bad 男どアホウ夏の陣!日本ロック…
  4. 世界で大ヒット中の映画『スパイダーマン:ホームカミング』の主人公トム・ホランドの…
  5. 『いぬやしき』興行失敗で垣間見える漫画原作映画の限界~世間はエグさに飽きている

関連記事

  1. アカデミー賞

    【映画鑑賞日記】セッション

    (C) 2013 WHIPLASH, LLC All Rights R…

  2. 映画レビュー

    俺が勝手に選ぶBest映画2014

    今年もBest映画を発表する時期になりました!毎年言うことにしてま…

  3. 映画レビュー

    驚異の技術力を示した実写版『ライオン・キング』だけど失った物もある・・・

    驚異的な再現力に脱帽としか言いようがないオリジナルに忠実に再現…

  4. 映画レビュー

    『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル』役者のコントが秀逸な新生ジュマンジに抱腹絶倒!

    北米では、当時、絶対的王者だった『スター・ウォーズ/最後のジェダイ…

  5. 映画レビュー

    『インクレディブル・ファミリー』14年ぶりの続編でも衰えぬ娯楽性と2010年代に通じる#metoo精…

    前作が14年前だというから嫌になる。しかも、ついこの前感があるから…

  6. 映画レビュー

    愛され系映画キャラの理想形『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』

    今回はシリーズ中でも最も笑えると思うくらい、下ネタ、社会風刺、毒舌…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. 映画レビュー

    『茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~』からサザンがエロスを歌う…
  2. ライブレポート

    ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017 4日目ライヴレポート
  3. ライブレポート

    ロック・イン・ジャパン2017 2日目ライヴレポート
  4. 音楽

    【徹底考察】ビルボード1位、米英人気過熱、国連演説・・・勢いが止まらないBTS(…
  5. 日記

    アナタが行くヤツ、それ本当にフェス?フジロックが世界の最重要フェス3位に選出!
PAGE TOP