映画レビュー

群像劇の大傑作『パトリオット・デイ』を観て感じるテロ時代のリアル

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これぞ、刑事映画だと太鼓判を押したくなるような大傑作だった。この映画は、2013年のボストンで起きたテロ事件を基にしているので、映画として、娯楽として消化することが、如何に不謹慎であるかは十分に理解しているつもりだ。犠牲者のご冥福もお祈り申し上げる気持ちは当然ある。
ただ、この映画は悲劇の記録映画として機能する以上に、完璧なまでの映画的な醍醐味をも併せ持ってしまったようだ。こんなスリリングなサスペンスを観たのは久々だ。

言ってみれば『踊る大捜査線』をハリウッドが本域でやったら、こうなるという指標。本来は『踊る大捜査線』の本広克行監督は、音響の大きさ、編集の細かさなど、日本映画・ドラマの定説を打ち破って、ハリウッド的な作品作りをしたかった監督のハズだが、本家と比べてしまうと、そのみみっちさが際立ってしまったようだ。日本の刑事映画の金字塔でもある『踊る~』は、軽快なギャグと、所轄(庶民派)肯定と、キャリア批判に終始してしまった。事件を解決するカタルシスや、肝心のヒロイズムよりも、共感性をうたって終わったに過ぎない。何も心揺さぶられるものは無いし、スリリングな展開も見せなかった。

しかし、この映画は違う。実際に起こった事件を描いているとは言え、だからこそか、徹底的にスリリングなのだ。実際の監視カメラ映像も使われ散ることも大きいだろう。ついこの間、アリアナ・グランデのコンサート会場はじめ、英国でテロが頻発している昨今において、その防止の困難さや、犯人の身勝手な言い分が、妙にリアルで恐ろしい。広義的に見れば、テロもイラク戦争の報復と言えるかもしれない。しかし、個人的な意見としては、テロに肯定の余地はないと断言する。

劇中では、犯人の妻が尋問されるシーンで、「シリアでは毎日多くのイスラム教徒が犠牲になっている」と言う台詞にも表れているが、双方の思想や言い分が交わらないことにこそ、現代の闇が生まれるきっかけとなっている。アメリカが正義で、テロ組織を悪とする、昨今のイスラム差別を助長しかねない、トランプ大統領の発言や、海外ドラマの描写のような、単純な一元論ではないことも、この映画は示す。もっと奥深いところに問題は根付いていることを諭されているようだ。

また、この映画は本当に多くの登場人物が描かれる。ケヴィン・ベーコン演じるFBI特別捜査官や、J・K・シモンズ演じる老保安官。幸せな日々を送る若いカップルや、飲食店の女性に思いを寄せる中国籍の男性。一見、無関係だと思う、各々のキャラクター(実際に存在する人物)が、このテロ事件に次第に関わっていく回収法が見事なのだ。この映画が、優れている点は、この伏線の張り方にあった。これほど成功した群像劇も、なかなかお見かけすることは出来ない。『踊る~』ばかりを否定するのも申し訳ないが、織田裕二の好感度ばかりを無駄に描くのとも違う! この映画は主人公である、マーク・ウォールバーグのヒロイズムさえピックアップしないのだ。テロに関わった人間ひとりひとりの心情を丁寧に描くことで、事件の関係者の心情を深く掘り下げている。だから、余計に感情移入してしまう。

最終的にテロには屈しない姿勢と、それに立ち向かうのは“愛”であることをメッセージとして残すわけだが、美談では済まされない現状を憂う気持ち、テロに対する断固とした否定的な態度も改めて持つべきだと気付かされた。

 

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