映画レビュー

人種差別を逆手に取った今までにない恐怖『ゲット・アウト』に身の毛がよだつ!

© 2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

※ネタバレ注意※
この記事は映画の内容に触れていますので、閲覧には十分に注意して下さい。

『シックス・センス』以来の衝撃だった。身の毛もよだつとは、こういうことを言うのだろうという映画体験だった。とにかく、アイディア勝ち。前半で特に意味を持たないと思われる細かなエピソードを回収する脚本の功名さに唸らせながらも、人種差別という米国に永遠に根差している社会問題を意表を突く形で結論付ける。単なる黒人差別の映画だと思ったら痛い目に遭うぞ!

トランプ政権が発足して約1年が経とうとしているが、今や米国は完全に分断されている。保守層が台頭しながらも、俳優や歌手にも多いリベラル派と対立していく中で、マイノリティ差別はより根深いものとなっている。
そんな世相の中に於いて、この映画は、白人彼女の実家に招かれた黒人彼氏の主人公を描くという、ある種の冒険をする。序盤で黒人彼氏は「歓迎されるわけない」と彼女に不安を言及するが、彼女は「父は熱心なオバマ支持者だった」とリベラルな思想を持っていると説明する。実際に彼女の実家に歓迎されるも、まさか、この“歓迎”の意味が後々の戦慄の展開に結びつくなど想像もつかないだろう。

白人彼女の家に着いて早々ミステリーは始まる。使用人が全員黒人であること、次第に、その白人達に周囲に仕える黒人の使用人たちの、目がイッちゃってる表情に、主人公は疑問を抱くようになる。
終始ニタニタ(ニコニコではない)している女性使用人の気色悪さ、夜中に庭の奥から主人公めがけて一直線に猛ダッシュしてくる黒人使用人の描写は気色悪さのあまり鳥肌が立った。社交界で出会った黒人青年は、視線が定まっておらず、笑顔である物の感情が感じられないのだ。
これらの黒人の使用人に対する気味悪さって、今や世界を席巻しているホラー映画『IT』でも注目される“ピエロ恐怖症”(ピエロの無表情なところに恐怖を感じる)に近いものがあると思う。
この黒人俳優たちの演技の薄気味悪さこそ、この映画の最大のキーとなる。喜怒哀楽が読めない、まるで道化師やロボットのようなの演技。まさしく怪演だ。

社交界でも、一見リベラルと思わしき白人富裕層の老人たちだが、黒人である主人公を妙に褒め称えるのだが、どうも胡散臭い。骨格や筋肉、性欲など、褒めるにせよポイントが違うのだ。この居心地の悪さはマイノリティ視点ならではの気持ち悪さで、見事にそんな不穏な空気感を描き切れたことに脱帽する。

その謎を、黒人を白人よりも劣った人種としての差別意識とは真逆の発想で、観る者を圧倒させる。
言ってみれば、黒人の能力は高く評価していても、彼らを実験用のハツカネズミのようにしか捉えていない白人老人達の発想たるや、恐ろしい。黒人の能力を自分のものにする、SFチックな発想だからこそ「非現実的」で、その嘘臭さに救われる部分があるにせよミステリーとしての上出来さを感じる。最終的には『ハンニバル』宜しく脳みそパッカ~ン描写など、開き直ってる程のグロ描写で、どうにも逃げようのないホラー感を以て一種のホラー的娯楽性を生み出している。ミステリーで頭をフル回転しながらも、ホラー要素と心理的恐怖との格闘の末、久々に観疲れする映画だったなと感じる。これを、黒人コメディアンであるジョーダン・ピールが作ったというのだから驚きだ。

(文・ROCKinNET.com)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 【全曲レビュー】桑田佳祐の最新作『がらくた』が凄過ぎた!大衆音楽ここに極まり!
  2. ポール東京ドーム初日を観た!
  3. 『ブラック・パンサー』を観た!社会風刺と娯楽性が融合したマーベルの新傑作が誕生し…
  4. 今年2018年のサマソニがガラガラの異常事態!~その原因を探ってみた
  5. 遂に日本国内興収100億円突破!『ボヘミアン・ラプソディ』はアカデミー賞を獲れる…

関連記事

  1. 映画レビュー

    完璧な前作で終わるべきだった残念続編『トイ・ストーリー4』を辛口批評!

    完璧なラストだった前作に泥を塗る駄作?第一作目はアニメ界の革命…

  2. 映画レビュー

    『ボヘミアン・ラプソディ』最高の伝記映画にして最高の音楽追体験のできる大傑作!

    身震いがした。全身の細胞が躍動しているのが分かった。それだけの…

  3. 映画レビュー

    『記憶にございません』風刺も思想もほどほどに抑えて大衆喜劇として見事に成功!

    風刺を許さぬ現代に三谷幸喜の才が冴え渡る!特に今のご時世、音楽…

  4. 映画レビュー

    DC史上最高傑作『アクアマン』多用な映画的要素が詰め込まれた究極の娯楽作

    圧巻のアドベンチャーでありDC映画の不評を吹き飛ばす素晴らしい…

  5. 映画レビュー

    決して米軍万歳ではない『ハクソー・リッジ』でメル・ギブソンが描きたかった本当の事とは?

    メル・ギブソンの映画は苦手である。痛々しいシーンが無駄にリアルで目…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. 邦楽

    毎年恒例の大発表!俺が勝手に選ぶ素晴らしき邦楽たち2016!
  2. ハリウッド

    【ジャスティス・リーグ公開記念】いま最もホットなハリウッド俳優“エズラ・ミラー”…
  3. ニュース

    またもコンサート会場が狙われる「米国史上最悪の銃乱射事件」から音楽ライヴ運営の将…
  4. ハリウッド

    『君の名は。』遂に北米公開で絶賛の嵐!
  5. 邦楽

    CDJ1819で大量発生した「あいみょん地蔵」で垣間見えた若いマナー違反客の現実…
PAGE TOP