映画レビュー

『レッド・スパロウ』で初ヌードを見せたジェニファー・ローレンスの女優魂に圧倒される!

© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

時代の寵児であるジェニファー・ローレンスが果敢にもキャリア初となるフルヌードに挑戦していると聞き、興味が湧く。しかも、大恋愛劇でイケメン俳優に抱かれるのではなく、国家機密諜報部員としての訓練の最中で、自分をレイプしようとした同僚の男に「ヤッてみせなさいよ!」と挑発するものだから面白い。この女、そんじょそこらの女優とは訳が違う。

散々ハリウッドはロシアを悪として描いてきた。それが2000年代には9.11の影響から中東に変わり、今では経済発展も著しい中国や、核開発で米と対立する北朝鮮へと変化している。そんな2010年代後半において、米露の対立を未だに描くことが逆に珍しい。
映画はジェニファー演じる主人公と米側のスパイの個人を描いてはいるものの、スパイ合戦の様を見ていると、冷戦や対立姿勢は決して終わらないことへの暗示とも思える。西側の思想を真向から否定し、ポケモンGOを悪魔と例えたり、同性愛を法律で禁じたり、パンク・バンド「プッシーライオット」が政府批判、風刺曲を歌ったことで国から監禁されたニュースが流れたことも記憶に新しいが、やっぱロシアって社会主義国家なんだな~、お国のタメならここまでやるのかと連想させる描写も多い。ロシアが怖くなる、ヘイト・ロシア映画でもある(笑)




この映画は、とにかくエグイ!
暗いとか重いとかってよりも的確に表現しているのが「エグイ」だろう。
裏切り、拷問、国家至上主義など、自分の倫理観に無いものばかりで胃もたれ感が凄まじい。
しかも、静かだ。007やMIならド派手な音楽に飾られ、音楽によって次に来るのがどのようなシーンなのか察しが付くところではあるが、この映画は無駄なBGMを極力削ぎ落とした静寂の中で、誰が味方で誰が的かも曖昧な状況下、自分がいつ危険に晒されるかも分からないから油断ならず、一見は気高く振る舞っているように見えるジェニファーだが、その眼差しはどこか怯えており、緊迫感が止むことなく、居心地の悪さまで覚える。要するに、俺はスパイには向いてないってことでもあろうけど、娯楽的ではないが、同監督作『アイ・アム・レジェンド』の手法が、スパイ映画に独特な奇妙な空気感をもたらし、功を成しているのに本気具合を垣間見る。

そして、最終的に一気に伏線を巻き取る見事なシナリオに唸る。ジェニファーのほくそ笑む笑顔に恐怖すら感じる。この女は、本当に只者ではない。#MeTooとか敢えて言わずとも男を飲み込む凄味がある。

そして、キャスティングが、まぁ凄い!
この手の濃厚な映画にはピッタリなジョエル・エドガートンも良かったし、ロシア側のお偉方に、ジェレミー・アイアンズ、キーラン・ハインズと濃過ぎる面子が嬉しい。中でも諜報員養成所の講師の、シャーロット・ランプリングの存在感。いるだけで作品の空気をかっさらう、その妖艶で奇妙な存在に跪かざるを得ない。決して好きと薦んで言いたい作品ではないけど、久々に重厚なサスペンス映画を観たような気がした。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 『いぬやしき』興行失敗で垣間見える漫画原作映画の限界~世間はエグさに飽きている
  2. 【全曲レビュー】桑田佳祐の最新作『がらくた』が凄過ぎた!大衆音楽ここに極まり!
  3. サンボマスター vs My Hair is Bad 男どアホウ夏の陣!日本ロック…
  4. 【ヒットの勝算はネット戦略にあり?】恐怖のピエロ映画『IT』が公開第三週で興収首…
  5. 何故「バルス現象」は起きるのか?その理由は日本特有の国民性と風土にあった!

関連記事

  1. 映画レビュー

    『アド・アストラ』映画的醍醐味も希望も描けないスッカスカな駄作

    くっそつまらない!大概の映画は表現の存在として認める性質だ…

  2. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】チャッピー

    (C) Chappie - Photos By STEPHANIE B…

  3. 映画レビュー

    『記憶にございません』風刺も思想もほどほどに抑えて大衆喜劇として見事に成功!

    風刺を許さぬ現代に三谷幸喜の才が冴え渡る!特に今のご時世、音楽…

  4. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】殿、利息でござる!

    喜劇かと思っていたら意外にも感動作だった。この時代劇が2016…

  5. 映画レビュー

    『ハンターキラー 潜航せよ』もはや映画で米露が争う時代は過ぎた

    ロシアとアメリカの軍潜水艦が爆撃される事件が発生と聞けば「20…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. 映画レビュー

    果たして労働は悪なのか?『ちょっと今から仕事やめてくる』に見る現代社会の新価値観…
  2. ライブレポート

    13年ぶりロッキンに出演したサザンが凄かった!ROCK IN JAPAN史上最大…
  3. ライブレポート

    ポール東京ドーム初日を観た!
  4. ハリウッド

    今夏最大の話題作『パワーレンジャー』に同性愛描写で再び波乱の予感
  5. 日記

    大雪なので雪の日に聴きたい楽曲を集めてみた!
PAGE TOP