人類歴史の絶対的悪であるヒトラーを大胆な切り口で用いたブラック・ジョーク満載なコメディ映画です。これまでヒトラーを題材にしてきた映画は五万とありますが、これほどに痛烈な風刺をした作品はありませんでした。現代版のチャップリンの『独裁者』と言って過言でない社会派コメディの傑作が誕生したわけです。
個人的な主張になるので賛否あることは十分に理解しておりますが、いまドイツだけでなく世界的に極右化が進んでいると思うんですね。この映画は、非常に面白い構成になっていて、ドキュメンタリーで描いている部分もあります。そこでは、ナチスのトラウマのない若い世代が、ヒトラー扮する役者に敬礼のポーズをしたり、写メ撮ってと抱きついて来たり、肯定的なTwitteが飛び交ったり・・・結構、驚くべき光景が平然と映し出されています。
ましてや、移民問題に悩むドイツにおいて、平然と外国人に対する敵意をあらわにしたり、中には強制収容所は今でも必要なんてことを言うドイツ人がいるんですから驚きです。
英国でEU離脱の支持が勝ったのもそう。
米国でトランプのような人物が共和党の大統領候補になるのだってそう。
日本だってそう。昨年の集団的自衛権の議論でも、賛成派の中には「国力を強くする」など軍拡路線を肯定し、それに反対する者を容易に「反日」と蔑み、ネトウヨなんて呼ばれる輩も出てきて、在日外国人の特権をどうたらなんてのもいる始末・・・別に俺も特定の国を擁護はしませんが(むしろ外国人高齢者の生活保護に反対など排外的な思想もあります)けど、愛国精神も行き過ぎると、もはやそれは民主主義と呼ぶに相応しくなく、それが過激化したのがナチ共産主義だったんでしょって。第二次世界大戦で6,000万人を犠牲にして勝ち取った民主主義が世界規模で揺らいでいるのは確かだと思うのです。
それを皮肉たっぷりに描いき警鐘を鳴らしているのが本作です。
もちろん、コメディなので、メルケル現ドイツ首相を「デブ女」呼ばわりしたり、『ヒトラー最期の12日間』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオマージュもあったりと、笑わせてくれるところも多くあります。けど、笑ってるだけでは済まない映画だという結論に達します。
テレビで料理番組を流すことを憂い、政治に関心を持てと怒りをあらわにするのは、まさしくヒトラーの人物像そのもので、映画が進行していくに連れ、twitterやFacebookをプロパガンダとして利用してしまうヒトラーの恐ろしさが際立ってきます。ヒトラーが仮に2010年代に生きていたらというのを巧みに描いています。
のんぽりや中道でいることが正しいとは思わないし、左が正しいとも言いません。しかし、極右化が持つ一種の危険性を我々は歴史から、もう一度学ばなければならないのではないかとこの映画から気づかされました。
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