映画レビュー

米国保守の象徴が自省を込めた『運び屋』はイーストウッドの贖罪映画である!

©2018 Warner Bros. All Rights Reserved.

御年88歳で監督主演、90歳を演じる超人イーストウッド

イーストウッドこそアメリカ保守層の象徴であった!

イーストウッドは共和党支持者だ。その政党思想、保守的で強い米国の実現はイーストウッドが演じてきた、無敵のガンマン『ローハイド』、暴力的な刑事『ダーティ・ハリー』に象徴される。イーストウッドこそ米国のPOWERの象徴であったのだ。白人男性で背も高く甘いマスクで利発的な姿は保守米国の憧れでもあった。

御大に訪れた転機~『ミリオンダラー・ベイビー』で全てが変わった

しかし、『ミリオンダラー・ベイビー』から作風や彼の作家的信条に変化が訪れたように思える。尊厳死の是非を問う同作は、共和党の思想に必ずしも合致するとは言えない。『グラン・トリノ』では人種差別主義の老人が、移民青年との出会いで変化していく。今回の『運び屋』も家族を顧みなかった男の贖罪めいたテーマ性があった。
『ハドソン川の奇跡』や『アメリカン・スナイパー』『15時17分、パリ行き』のように、米国ヒロイズムをわざとらしく掲げる作品も無いわけでは無いが、強い米国の象徴イーストウッドはどこか丸腰で、近年特に頻繁に世に出される作品では、自身の過去を省みるようなメッセージが垣間見える。

©2018 Warner Bros. All Rights Reserved.
御年88歳の御大の現役感に感服する!

近年は映画に贖罪めいたテーマ性を感じる

イーストウッド自身、この贖罪的なテーマ「仕事に夢中になるがために家族をおろそかにする人物が許しを乞う」設定が無かったら制作に踏み切ってなかったとコメントしているように、高齢になった今こそ自分の想いを映画に全て詰め込んでしまおうという姿勢すら感じて、感慨深い。主演はこれが最後かも知れない。
イーストウッドに対して「最後」とか「引退」とか、英雄への敬意という意味合いにおいて、そういう言葉は使わないようにしているのだけれども、齢88歳である、御大のメッセージに寄り添う体験ができる喜びはひとしおに思える。

[PR]

誰かに必要とされたい高齢者の悲哀を感じる

朝起きて今日も仕事かと嫌になるのは誰でも一緒だが、実際に仕事が無くなると人は焦る。誰かに必要とされたくなるもんだ。20代後半で会社から独立した私が正にそうだった。この『運び屋』の主人公も、自分はまだまだこんなもんじゃないと思ったに違いない。必要とされたいのだ。だから、メキシコの麻薬カルテルから運び屋としてスカウトされ、どこかお気楽に車を運転する様子で、違法な道の深みに意識的にハマっていくのも、自分の居場所が出来たことの喜びでもあるのだと思う。
その結果、自分を破滅させてしまうわけだが。誰かに必要とされたい老人の「承認欲求」と、人生で最も掛替えのない家族への「贖罪」という観点で、この『運び屋』を観ると、故意ではないきっかけで人生の歯車が狂ってしまった、不器用な男性の悲哀に切ない思いがした。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

[PR]




[PR]

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 【追悼】アメコミ界の巨匠スタン・リー逝去~映画カメオ出演を振り返る~
  2. アナタが行くヤツ、それ本当にフェス?フジロックが世界の最重要フェス3位に選出!
  3. 『いぬやしき』興行失敗で垣間見える漫画原作映画の限界~世間はエグさに飽きている
  4. 初の武道館公演を控えるマイヘア椎木ってナゼ好かれるのか?彼の魅力を挙げてみる!
  5. 『君の名は。』遂に北米公開で絶賛の嵐!

関連記事

  1. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち

    ティム・バートンという映画監督をどういう作家性と位置付けるかにもよ…

  2. 映画レビュー

    【映画レビュー】『キャッツ』そもそも映画化すべきでない!

    そもそも論として、この不朽の名作である『キャッツ』が今まで映画…

  3. 映画レビュー

    『怪盗グルーのミニオン大脱走』子供が笑えばOK!それ以上でも、それ以下でもない!

    こういう映画は子供が楽しめれば全部OKだと思っている。だから、各映…

  4. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】マグニフィセント・セブン

    原作があまりに名作だとハードル高くて困るよね?笑『七人の侍…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. ライブレポート

    【速報レポ】My Hair is Badの初武道館公演を観る!椎木が提示した正し…
  2. 音楽

    【FUJI ROCK直前特集 Part.2】音楽に政治を持ち込むのは是か?非か?…
  3. 日記

    パリピが日常悩んでる嫌なことって何?ストレス溜めない極意がULTRA JAPAN…
  4. 邦楽

    実は失敗していたサザンの紅白!ユーミンとの奇跡の共演に助けられ拍手喝采!
  5. ニュース

    【日米LGBT理解度格差】LADY GAGAが「ミス・ゲイ・アメリカ」選出!一方…
PAGE TOP