映画レビュー

『カメラを止めるな!』は確かに面白い!当たるべき所に陽が当たった喜び!

(C) ENBUゼミナール

※注意※
当記事はネタバレしておりますので、未鑑賞の方は絶対に読まないよう、お願い致します。
作品の内容上、予備知識が無ければ無いほど楽しめる映画だと思っております。
閲覧の最終判断は読者様のご判断とご意向にお任せいたしますが、
ネタバレによる苦情などは一切受け付けられないことだけ予めご了承ください。

今年最も賞賛を贈りたい日本映画に出会えた喜びで心がウキウキしている。
ゾンビ映画を撮っているクルーに本物のゾンビが襲ってくるというチープな設定から映画は展開する。
この冒頭の映画作品の使い方が絶妙で、その映画中でゾンビに追われた女性に監督が「おい!脚本通りにやれ!」と叫んだ後に、恋人を斧でズバッとやってしまう強烈なシーンを見せるなど、どこまでが映画か現実か分からないのがキーだった。結局そのネタバレは後々されることになるが、低予算のインディペンデント映画であることを逆手に取った展開が見事だと後になって気付かせられる。

その冒頭の映画の中で、時折、不自然な会話や、意味不明な役者の言動があるので、やはり低予算の単館系なんて、こんなもんかと呆れ半ばに観ていた。30分の長回しくらいで話題になるなんて、世間の評価も甘いなと! この程度の映画で売れて調子づいた監督が、メジャーに行って園●音のような刺激だけで中身の無い、しょうもない映画を撮るんだろうな

と思っている矢先に
映画は驚くべき方向展開をする!

三谷幸喜が自身の著書「脚本通りにはいかない」を映像化した、傑作コメディ映画『ラヂオの時間』を彷彿とさせるストーリー。一筋縄にはいかない、映画を作る際に起こるドタバタをコミカルタッチに描いていく。
生放送、ワンカット、ゾンビ映画という無謀な条件を突き付けられた主人公たちがテンヤワンヤしながら奮闘していく姿が抱腹絶倒なのだ!
海外でも絶賛され、日本でもたった2館の上映から300館までに拡大するヒットとなった作品が、感動モノやホラーなどでなく、コメディで成し遂げたことが凄い。映画のジャンルで、最も難しいのがコメディである。国柄や習慣や個人のセンスで笑いのツボは異なる。けど、万人に受け入れられる、ドリフのような笑いを2018年に映画として作ったのは脱帽としか言いようがない。

そして、各々の登場人物のアクの強さが作品を余計に可笑しくしている。
主人公である気弱な映画監督、訳ありで演劇界追放された元女優の妻、作品の為なら上司にも噛み付く熱血娘。演技の才能が無い旬のアイドル、理屈っぽくて我儘なイケメン俳優、アル中のベテラン俳優、硬水を飲むと腹下す俳優、意見を言うが全て受け入れられない眼鏡をかけた気弱な俳優。誰一人としてキャラクターが弱い人間がいない。

無名の俳優ながら見事な演技で個性を発揮していて、逆にこういう俳優をどんどん起用すべきだなと思った。初見なので、彼らの素の表情を知らないからこそ、すんなりとキャラクターが入ってくる。虚構が成立しやすい。やはり役者ってのは、やたら滅多にバラエティ番組に出ない方がいいのかも知れない。先日ご逝去された樹木希林くらいじゃないかね、素の表情を知って人間味や役者の味が深まるってのは。
ジョン・ウー監督作で福山雅治主演の『マンハント』に出てた無名の俳優の大根加減を見て、やはり売れてる俳優とは力量が違うのかなと思っていたが、無名でもこんなにいい役者は腐るほどいるのだ。そういう人間にこそスポットライトを当てるべきと感じた。日本映画って毎回同じような役者ばっかりでしょ? それが悪いとは言わないけど、偏り過ぎ。この映画に出ている役者は、それこそ今後もっとメジャーな映画に出演して欲しいくらいだ。

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そして、何より、この映画の最大の醍醐味である、冒頭のゾンビ映画部分の「?」だった伏線の回収が見事! 全ての理屈が面白おかしく繋がっていく様は痛快この上なく、練りに練られたシナリオには脱帽と言うしかない。

この映画の根底には「映画愛」があると思う。登場人物たちは苦心しながらも映画撮影に全てを捧げている。
トラブルにより、肝心のオチの部分の撮影が不可能になったと皆が悩んでいる際、「そんなの誰も見てない」と、いい加減な言及をするプロデューサーに対して、普段は周囲に媚びへつらっていた主人公が感情的に反論するシーンは映画作家としての、この映画の監督の映画に対する意見であり、姿勢であり、愛ではないか。
低予算だろうが、インディペンデントだろうが、こんなに真っ向から俺たちは映画を作ってる、映画人としての誇りを掛けているんだという作家魂のようなかめらエネルギーを感じた。
表現に有名も無名もない。有名だからって偉く優れているわけではない。むしろ、しがらみのない、こういう映画にこそ、本質的な面白さはあるのかも知れない。そんな、本作の監督がメジャー映画の予算を与えられた時に、しがらみの中で、一体どういう作品を作るのか、是非とも観てみたいと心から思った。凄いことになりそうだ。
こういった素晴らしい新たな才能に光が当たったことに祝福を!
(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

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