映画レビュー

『ジョーカー』現代社会の理不尽さと歪みを叩き出す衝撃作にして大傑作!

(C) 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics

初めて映画で恐怖を感じた。
ホラー映画の娯楽テイストの恐怖ではない。人間のもっと神髄に迫った奥深い部分への恐怖だ。

2008年、長引くイラク戦争、リーマンショックにより経済が停滞していた頃に『ダーク・ナイト』が公開された。閉塞的で絶望に満ちた希代の大傑作は時代の空気感に合っていた。それから11年、差別主義者が世界一の大国を牛耳り、米中貿易摩擦が起こり、香港では体制と民衆が激しく衝突、再び世界は混沌としている。そんな中、また”彼”が現れた。

映画史における無二の悪役がナゼ極悪な道を選んだかの過程を、格差や貧困など社会の理不尽さや歪みといったリアリティの中で描き切った大傑作だった。今まで見てきた、単なる悪役”ジョーカー”のイメージを覆す、その誕生秘話は意外にも切ない物語で、DC映画として娯楽作の域を超えた。社会的弱者の拠り所がない現代社会の闇を浮き彫りにさせた社会派ドラマとして、時代に問題提起する濃厚な内容だけに、オスカー受賞も夢では無いかも知れない。

[PR]


凶悪犯罪が起こった時、時に社会に責任転嫁をする場合があるが、個人的には犯罪者自身の問題と目を背けないようにしている。道を外さずに生きる人間が圧倒的に多いからだ。けど、セーフティネットも機能せず、社会の理不尽がまかり通り、勤勉な人間が陥れられる社会であってはならない。アーサーが純粋な芸人志向の青年だったように・・・・・・。精神障害の理解の遅れや差別、生活保護が槍玉に挙げられることがあるが、救済なき行先は狂気だということを、この映画は強烈なインパクトと共に提示した。

(C) 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics

虐げられた者の視点で描かれた世界は冷酷以外の何者でも無かった。自分の出生や置かれた環境にもがき苦しむ中で、彼は不運が重なり道を外してしまう。しかし、外れれば外れるだけ彼は、まるで呪縛が解かれたかのように活き活きとしていく。その残虐描写と、背景に流れるチャップリンの「smile」や、ゲス・フーの「Laughing」などの往年の名曲とのギャップが何とも言えないトラウマを醸し出していた。
同時に、ゴッサム・シティは、彼への賛同者で溢れかえった。強奪と破壊が行われ、上流階級に向けた攻撃が激化していった。ジョーカーが覚醒した時、秩序は完全に崩壊されていた。

分かっていながら目を背けていた社会の歪みが暴発した結果だ。その光景があまりに恐ろしかった。デ・ニーロ扮する人気コメディアンが、ジョーカーの身勝手な弁明を、「殺人を肯定する言い訳に過ぎない」と、糾弾する発言こそが社会通念であり、この映画の良心に思えたが、それすらいとも簡単に破壊してしまう狂気。

彼だけの問題だったのか? 社会構造の問題が彼を生んだのか?

問題は根深い。絶望のまま映画は幕を閉じる。しかし、「それは許されない」と、いつか彼には正義の鉄槌が下される。暴動の際に殺害されたウェイン市長候補の子である少年が立ち尽くす姿に希望を見い出したくなる思いだ。彼が何者か言う必要も無い。


(文・ROCKinNET.com編集部)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。

[PR]






[PR]

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 『ブラック・パンサー』を観た!社会風刺と娯楽性が融合したマーベルの新傑作が誕生し…
  2. 2017年 勝手に選ぶベスト洋楽 TOP10
  3. 初の武道館公演を控えるマイヘア椎木ってナゼ好かれるのか?彼の魅力を挙げてみる!
  4. ロッキンにサザン13年ぶりの降臨!昨年の桑田ソロに引き続きフェスに出る意味とは!…
  5. サンボマスター vs My Hair is Bad 男どアホウ夏の陣!日本ロック…

関連記事

  1. 映画レビュー

    実写版『ダンボ』大衆娯楽施設が悪者って・・・よく許可が降りたなと思う

    耳が大きいという外見的なハンディを負った小象は正しく『シザーハ…

  2. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】二ツ星の料理人

    Artwork (C) 2015 The Weinstein Comp…

  3. 映画レビュー

    何故か『ヴェノム』が可愛く見える不可思議?最恐で最高のダーク・ヒーロー誕生!

    ヴェノムは既に2007年の『スパイダーマン3』に登場済みヴェノ…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

  1. 邦楽

    安室奈美恵の引退への想い~安室という現象が現代の日本女性像を変えた~
  2. ハリウッド

    年収50億のジョニー・デップが破産寸前な理由とは!~お金について考える
  3. ニュース

    【歌姫から伝説へ】安室奈美恵に25年分の感謝を!さよなら、ありがとう安室ちゃん!…
  4. 邦楽

    RADWIMPS「HINOMARU」が物議!ポップ・ソングの右傾化に不自然さを感…
  5. ライブレポート

    【ライヴレポート】ポール・マッカートニー(2018/11/1@東京ドーム)
PAGE TOP